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「もういい? 早く行きたいんだけど」
手を上げてヒラヒラと振って見せたヘルトは、どうぞと言って笑った。
その馬鹿にしたような態度をいちいち相手にすることももう疲れた。
下を向いてさっさと通り過ぎようとしたら、すれ違い様にヘルトがルキオラの耳の近くに顔を寄せてきた。
「偽者」
顔を上げたルキオラに向かって、ふわりと微笑んだヘルトは背を向けて、何もなかったかのように、また神官達と談笑しながら歩き出した。
その後ろ姿を見ながら、ルキオラは胸の痛みに手を当てて、大きくため息をついた。
ヘルトとの仲は昔から変わらない。
お互い同じ容姿で同じ立場、ルキオラは仲良くしようとしたこともあったが、ヘルトは最初から敵意のこもった目で見てきた。
顔を合わせれば、バカにされていじわるなことばかり言われてきた。
それは鏡のように見える相手への反抗心なのか、よく分からないが、ヘルトとまともに話ができたことなどほとんどない。
おそらく、それはこれからも変わることはないだろう。
ヘルトの姿が消えてからも、ルキオラは足が固まってしまったように動けなかった。
「お話には聞いていましたが、これほどまでとは……」
そこで黙っていたウルガが口を開いた。
ヘルトと顔を合わせると、誰もが頬を染めて浮かれた表情でヘルトの話をするのに、ウルガにその様子はなかった。
「お前は真面目な男なんだな。そういえば、体格も神官見習いにしては、ずいぶんと立派だ」
「へ? 私ですか?」
突然風向きが自分に変わったので、ウルガは驚いたようだった。
「いや、あの、元々騎士希望だったんです。ただ、訓練で足をやってしまいまして……。その頃、両親も他界して、どうしようかという時に、見習いの話をいただいたんです。ほら、見習いにしては、年がいってますでしょう」
確かに見習いはまだ十代になったばかりの子が多いが、ウルガはすでに二十歳を超えていた。
この年で見習いということは、神官になるにはかなり先になってしまうので、出世は望めないだろう。
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