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「前にいた地方の神殿では、年寄り扱いでしたから。英雄様のお世話ができる大役を仰せつかって、どんなに嬉しかったか。誰に何を言われようと、しっかりお務めさせていただきます」
変わった男もいるものだと、ルキオラは思った。
長く就いてくれる従者がいるなら、それに越したことはない。
茶色い髪に茶色い目で男らしい顔立ち、目立った特徴はなかったが、ウルガは優しい目が印象的だった。
よろしく頼むと言って、ルキオラは部屋に戻ることにした。
「そういえば、先ほど衛兵が話していましたが、警備が増えたので、誰か高貴な方が神殿にお見えになるみたいですよ」
その言葉に深く沈んでいたルキオラの心は一気に浮上した。
ただ息を吸っては吐き、針の上を歩くようなこの生活で、ルキオラにとって唯一の心の支えとなるものがあった。
先ほどまで寒気がして、倒れてしまいそうだったのに、今は心に降っていた雨が晴れて、眩しいくらいの気持ちになっていた。
「いつ、その方がいらっしゃるのか。聞いてきてくれる?」
今までに見たことのない明るい表情のルキオラに、ウルガは不思議そうな顔をして、はいと言って頷いた。
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