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「もちろん俺等は抵抗するでっ・・・」
「拳でっっ!!!!」
拳で天を仰いだ瞬間、その男の脳内に甲高く麗しい女神様の声が流れる。
「その言葉、他意もなく純粋である。真に力を示す者の覚悟と認識しました・・。」
拳を握った男が女神様の言葉を認識する隙もなく、唐突に彼の拳から光が放たれた。その光はその男を包み込み、周りの人々の瞬きの間にはもう彼はそこには居なかった。
そう、彼は選ばれた・・。異世界を救う勇者として。
光の眩しさから覚めると、この男の目の前に神々しい光を背景にして浮遊する美しい女神様がそこにいた。
「あなたは選ばれたのです。きっとこちらの世界を救う救世主に成り得ると・・・。」
男は拳を掲げたままだった。もう一度、拳をグッと握りしめ、肘を突き出した。
「もちろん俺は抵抗するで?!」
男はまた威を示した。
その男は、この状況下で威を示す対象が替わっていることは認識していたが、混乱に乗じて再度自分の強さを魅せ付ける。
女神様は表情をかえず、優しく男に言葉を投げかける。
「・・・うまく状況が飲み込めない気持ちはわかります。ですが、あなたは神に選ばれたのです。ここは元いた世界とは別次元にあります。突然元いた世界から引き離されたあなたには同情しますが、あなたには勇者として異世界を救ってほしいのです・・・。私の与えるギフトと共に、異世界で存分にその力を示すがいいでしょう・・。」
「なにーっ?」
それでも男は把握しきれずにいた。突拍子のない周囲の環境の変化に対する混乱もある。女神様の言葉の意味自体、男に理解が及んでいるかどうか。男は女神を睨んだ。
女神も彼を睨む。しばらく睨み合いが続いた。
天界にして数十秒、地上にして約3ヶ月、この睨み合いは続いた。
一刻を争う異世界の危機に・・、女神は折れて先に口を開いた。
「私に敵意はございません。あなたに全能な神からギフトを捧げます。どういった力でも叶いいれましょう。そして旅立つのです。」
「なにーっ?!」
「っ、、」女神は少し顔をしかめた。
再度睨み合いが続く。
威を示しながら、今度は男が先に口を開く。
「・・・・俺にはこの拳があればいいっ!」
女神は困惑した表情で真下にうつむき、ゆっくりと顔を上げた。
男はその所作を観念して頷いたものと受け取り、女神の目を見て力強く頷いた。
女神様は不本意ながらその男の頷きに呼応して頷き、ゆっくりと口を開いた。
「・・・あなたの欲する力、しかと聞き入れました。その力を持って、その世界を救ってください。」
再度、まばゆい光が周囲を包み込み、男は目を閉じた。
瞬きをすると、周りには草原が広がっている。男は抵抗する暇もなく既に異世界に飛ばされていた。
「ここどこーっ!?」
状況は一項に飲み込めなかった。しかし、目の前に対峙する者もいなくなり、見覚えのない景色が広がるばかり。しだいに威勢を張る気持ちも冷めて冷静さを取り戻した。
あらためて周りを見渡す。快晴といえる程の真っ青な空にさんさん照らす太陽、空気はややあたたかく、清々しい草原が遥かまで広がっている。ようやく、男は深呼吸をする。爽やかな空気を胸いっぱいに膨らませると、得体の知れない不安と憤りがふつふつと湧き上がってきた。
「ここどこーーーっ!!?」
腹一杯に溜め込んだ空気を吐き出すように彼は叫んだ。
ひとしきり叫んでみたものの、やはり周りに変化はなく、誰も見当たらず静まり返っている。男はようやく、自分のこと、自分の身に降り掛かっている事実に対して、自分の頭で整理しようとした。
男の名は中尾隆。(以下 たかし)
先程まで公園の入り口で小学生と揉めていたが、何の因果か女神に見初められ異世界へ送りこまれてしまった。たかしは未だ気づいていないが、女神は彼の拳に無限の可能性を与えた。
拳を振りかざすと雷を放ち、突けば爆風を生むこともできる。拳をかざせば他を癒やす光にもなる。
しかし、これは拳が持つ力のほんの一部分でしかない。
如何なる経緯であろうが、公園でなにやら譲れぬもののため、たかしは戦わんとする純粋な意志と強い威勢を魅せ付けた。己の尊厳やプライド、力を誇示し理不尽から抵抗し続けるリアルガチな男の狂気。この瞬間のたかしの姿勢は必然、神々から最上級のギフトが与えられるに相応しいものであっただろう。
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