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パーティーの主催は、テレビ局、芸能・音楽プロダクション、出版社などを傘下に持っている大企業、サクラ・メディア・ホールディングスだ。
オレはこのパーティーを前に、二年以上ご無沙汰だった行きつけの美容室に足を運んだ。地のライトブラウンの色がかなり出てきてしまった髪を再び黒一色に染め上げ、伸びた分だけカットして貰った。
行く前には黒のカラコンもした。
自分でも未だに何故こんなことをしているのか解らない。
冬馬はもういないのに。
自分の気持ちを隠すように、彼のお気に入りの髪と瞳の色を隠してきた。まだ続ける意味があるのか。
クリスマスを兼ねたそのパーティーは、かなり大規模で華やかだった。
天音の運転で家族全員で来たが、会場に入るとオレは知り合いに鉢合わせる前に、目立たない隅の方へ寄ろうと決め込んだ。
── まさか、そこでアイツに会うなんて。
オレの進行方向の先に、石蕗壱也は立っていた。遠くから一目見て、一瞬で過去に戻った。
( あまねくんの……うそつき……)
そう思ったのが最後で、そのあとの記憶がない。
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── 自分の家に戻って来ている。
ここは間違いなく自分の部屋だし、上着とタイはなかったが、シャツとスラックスはパーティーの時に着ていたものだ。そういえば、スマホと鍵は上着のポケットに入っていたはず。
ぼんやりとした記憶を辿っていると、トントンと遠慮がちなノックの音が聞こえた。
「シウさん、大丈夫ですか?」
冬馬?と、一瞬思ったが、その筈はなく、これはハルの声だなと思い直した。
( でも、なんでハルが? オレはあそこでハルに会ったのか? )
どれだけ思い出そうとしても、アイツに会ったという記憶しかない。オレが考えている間にも、ドアの向こうで「シウさん? シウさん?」と小さく呼ぶ声がする。
分からないことは本人に聞くしかない。
「入っていいよ」
やや間があってドアが静かに開き、長身でスタイルの良い男が遠慮がちに入って来た。何故か大きな身体を縮こめるような感じで、ドアの前に立ったまま動かない。
オレは人差し指をちょいちょいと動かして、こっちへ呼ぶ。
ハルは音を立てないように静かにベッドの方へと歩み寄ってくる。が、途中で立ち止まり、足許の何かを拾うと、パソコンデスクの上に滑らせた。
( ──? )
彼は顔を一瞬曇らせたように見えたが、何事もなかったように歩きだし、オレの前に立った。
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