モノローグ

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この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。また、作中で一部犯罪的な表現等がありますが、それらを推奨する意図はありません。  世の中に、「いい人」はどのくらいいるだろう。「悪い人」はどのくらいいるだろう。「悪い人」とは何をもって「悪い人」と呼ぶのだろう。  人殺し? 強盗? 強姦?  それほどの悪事を働かずとも、品行方正に生きてきたと胸を張れる人間はどれほどいるだろう。  この話題になるにつけ思い起こされるのは、私が小学生の頃の記憶。遅刻しそうになって赤信号を渡ったこともあれば、ただの暇つぶしという名目で足元に列をなしていたアリを無差別に踏み潰したこともある。今思い出しても罪悪感の欠片も湧かないけれど、きっと心の清らかな人はこの所業に眉を(ひそ)めるに違いない。  では目の前にいるこの人はどうだろう?  薄目を開けて、彼の長めの前髪から覗く瞳を見上げた。切れ長の目はまるで猫みたい。左目の下にある涙ぼくろと、余裕そうに持ち上げられた口角がとても色っぽくて、私はそれが大好きだ。彼に今、裸で組み敷かれているという現実。その行為自体が、彼を色っぽく見せるのに一役買っているのは間違いない。  今日の私は無性にむしゃくしゃしていて、とにかく彼に滅茶苦茶にされたくてしかたなかった。 「……何考えてるの? もっと俺に集中して、こっち見てよ」  顎を掴まれ、目と目が合う。彼が口を付けた煙草の先端が赤く発光するのを見た、その次の瞬間。 「、っ!」  二の腕の柔らかな皮膚が焼けるジュ、という嫌な音が聞こえ、(くすぶ)ったような煙が上がると同時に焦げ付くような臭いが鼻をついた。同時に脳天まで突き抜けるような激痛が襲う。 「はぁ、はぁ、……」  激痛が一瞬にして快感に変わる。途端に結合部が熱を持ち、それを快感だと認識するのに数秒さえもかからない。 「っあ……!」  快感が最高点に到達しそうになって、思わず腰を引いた。 「、なんでいつも逃げるの……? 本当はイキたいくせに」  何故、私は逃げてしまうのだろうか。 「だっ……て、……だって、怖い、からっ……」  私はたどたどしくそう言い訳した。ずっと、こんな風に全身の皮膚を剥かれたかのように敏感なままで、快感の極地に浸っていたい。この(ひと)にどろどろに甘やかされて、愛される時間を終わらせたくない。(うつつ)に戻ることが怖かった。 「いやっ……、」  知っていた。これは本当の愛じゃない。偽りの遊びなのだと。それでも、夢から覚めたくなかった。この(ひと)との出会いを回想することで、快感から目を逸らそうと躍起になった。
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