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彼女の映画
交通事故で僕は死んだ。運転手に山に運ばれて捨てられたことで、誰も僕が死んだことに気が付かない。
僕が死んでも彼女は変わらず窓際で本を読んでいた。僕がいなくなって半年ほど経った頃。突然、彼女は映画を作り始めた。
一人の男性の人生を追った映画だった。その主人公のモデルは明らかに僕だった。でも。その映画の中の僕の人生は劇的で感動的だった。映画が公開されると世界中の人々が称賛した。多くの人が僕の人生を褒めたたえた。
僕はすでに死んでいるのに。死にたくなった。映画の中の人生は平凡な僕の人生とは似ても似つかないものだったからだ。
彼女はメディアの取材にモデルの人物のことは絶対に話さなかった
「映画というのはそれが幻想的あることに意味があるんだよ」
そうシニカルに笑って彼女は世界を煙に巻いた。
僕はドヤ顔の彼女に一言文句を言いたくなって、霊体のまま彼女に会いに行く。
たぶん聞こえていないし、見えていないだろうと思いながらも僕は彼女に文句を言う。
「どうして、あんな映画を作ったの?」
彼女は僕の浮いている空中に視線を合わせると笑いながら言った。
「君が文句言いに帰ってきてくれると思ったからさ」
僕はその馬鹿馬鹿しい動機と行動力に唖然とする。
「また会えたね」と。
彼女はおかしそうにくすくすと笑った。
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