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昨日の通夜は会社関係者から参列者がすごく多かった。お父さんは四十歳で営業部の部長という結構偉い立場だったらしい。しかも高卒で入って年功序列ではなく実力でその地位についた。だから部下の気持ちがよくわかっていた、人望があったみたいだ。実際お父さんより年下の人たちはみんなハンカチで目元を押さえ泣いていた。
別れの言葉の挨拶を代表で話している人は母の兄、伯父さんだ。同じ会社で働いている。よく一緒にお酒を飲みに行っていた。
「部下に働き方だけではなく、その後のライフプランをどうするのかなどの生きる道そのものを与え続けてきた省吾君。早すぎるよ、無念でならない」
生きる道。それは通夜でも今日の告別式でもよく聞いた言葉だ。お通夜に来てくれた人たちもみんな口を揃えて言っていた。あの人に相談した人生が変わった、生きる道を示してくれたと。
優しい人だった。優しいだけじゃなくて厳しさもあったからいろんな人から慕われた。私が進路に迷った時も、こんなことを言っていた。
「和泉は何をしている時が幸せなんだ?」
「え?」
「やりたいことを探すのは結構難しいもんだ。だったらまずやりたくないことをやらない。やりたくないことを引き算していくと、残ったものが勉強や仕事になって、生きる道になるもんだよ」
「私の幸せなことかあ」
すごくわかりやすい話だった。母の「進路何にするの? 将来やりたいこと決めないとだめよ」という話よりはすごく理解しやすい内容だった。
「それだったら答えは一つしかないよ」
「お、すぐ見つかるのはすごいことだぞ? 父さんの部下の一人はいまだに『綺麗なキャバ嬢のオネーサンと結婚することです!』とか言ってるし」
「何それ」
そんなふうに笑い合っていたけれど、あの会話がなかったら私のやりたい事ははっきりとわからなかったかもしれない。あれがあったから私の生きる道となった。
お坊さんのお経が終わって、いよいよこれから火葬場へ向かう。すると母が突然立ち上がって棺に縋った。
「いや! 丸焦げするなんてえええ!」
「志津香さん! 落ち着いて!」
必死に他の人に説得され、土下座をするように泣き崩れる母に私が肩を貸す。
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