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「和泉ぃ、嫌よね? お父さん骨になっちゃうの嫌だよね!?」
「お父さんがいつまでも苦しいままでいいの」
「え……」
「ちゃんとお墓に入れてあげないと。お父さん、きっと死んじゃったときのままで血まみれで苦しんでるんだよ。お葬式をして、焼いて、体がなくなった状態にしてあげないと。魂だけにして天国にいかせてあげないと、この先ずっと苦しみ続けるんだよ」
「和泉……」
私は涙を流すことなく遺影を見つめる。加工なんてしてない、本当のお父さんの笑顔。私がカメラを向けるといつも笑顔で写真を撮らせてくれた。写真って面白いんだよ、そんな私の言葉にウキウキとカメラを買っていた。
「山って、天国につながる近道なんだって。お父さんが行った山、霊山で有名なところらしいよ。きっと今、山で歩きまわってる。天国に行く準備は残された私たちがやってあげなきゃ」
私の言葉を噛み砕くように聞いていた母。すすり泣きながらゆっくりと自分の席に戻る。
「火葬、行くのやめる?」
私の言葉に母は少し考えたけどゆっくりと頷いた。
「耐えられない」
その言葉に親戚の人たちも、「ここで待っていて、私たちが責任を持って執り行ってくるからね」と母に優しく語りかける。
「和泉ちゃんも無理しないでね」
「はい」
火葬場にはマイクロバスで向かう。葬儀場と火葬場は大体近くに建てられているからすぐに到着するだろう。バスの席で隣に乗ったお父さんの妹さん、叔母さんが私を気遣いながら話しかけてきてくれた。
「本当に無理してない?」
「全然涙が出ないんです。葬儀の準備とか、何かの解約とか、そんなのばっかりで。お父さんにもちゃんと会ってないし。頭が……原型とどめてなかったみたいで。身元確認、直接見るのはやめたほうがいいって警察の人から止められました。たぶん見てもわからないんだと思います。だからお父さんが死んじゃったっていう自覚なくて」
「そうね、私も止められた」
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