戻り道は生きる道 帰る道

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 登山届を律儀に出していたのでそれが決め手となった。念のためDNA鑑定も今やってくれているけれど間違いなくお父さんだ。 「さっきの山の話、びっくりしちゃった。よくそんなこと知ってたね?」 「お通夜が終わった後住職さんに話しかけられたんです」 「霊山、ですか」 「ええ。あそこは昔から亡くなった御方の旅先だと言われているんです」 「でもそれって富士山じゃなかったですか?」 「そうですね。でも日本各地にそういった山はいくつかあるんですよ。山は黄泉の世界に最も近い。だから亡くなったら体に旅支度を施してあげるんです。旅に難がありませんように、無事極楽へ着きますようにと」  道を間違えないように支度をして導いて後押しをしてあげるのが、生きている私たちの役割。住職さんはそう教えてくれた。  火葬炉に棺が入れられる。ここから大体一時間か一時間半位だと説明されて、私はその間にしゃがみこんだ。 「和泉ちゃん」 「お父さんの身体がなくなるの、一時間くらいなんだ」 「それは」 「短くないですか? 人間ってそんなに早く体がなくなっちゃうんですか。料理だって、仕込みに何日もかかるお店があるのに! お父さんが骨になっちゃうの、たった一時間!?」  私の目からポタポタと雫が流れ落ちる。叔母さんたちが私を支えながら近くにあった椅子に座らせてくれた。 「和泉ちゃん。辛いだろうから先に葬儀場に戻ってて」 「でも!」 「あのね。大切な人の『骨』を見るのって結構ショックだよ。私もおばあちゃんが死んじゃった時、大好きだったおばあちゃんの記憶と目の前に広がる骨がどうしても結びつかなくて辛かった」 「今の和泉ちゃんはお父さんの笑った顔だけ覚えていれば十分だよ、ね?」  伯父さん、叔母さんに説得されて私は頷いた。母の様子を見てます、と言って立ち上がる。誰かついて行こうかと言われたけれど、私は少し一人になりたいからと断った。タクシーで先に戻ると伝えてタクシーを呼んでもらった。タクシーに乗って少し道なりに走っていたけれど、運転手さんに声をかける。 「すみません、コンビニ寄ってもらっていいですか。確か途中で一軒あったと思います」 「確かにありますね、かしこまりました」  冷たい飲み物を買って店の外で半分ぐらい一気に飲み干した。冷たい感覚が一気に体に染みわたって頭がすっきりする。もう少しで葬儀が終わる。最後までしっかりしないと。
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