戻り道は生きる道 帰る道

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 その後は滞りなく進んだ。泣いていた母も葬儀場の人といろいろなことを話し込んで少し落ち着いたようだった。骨壷を前に住職さんが再びお経をあげてやがて葬儀は終わった。片付けを始めて帰る人たち。私の火葬場での出来事を聞いた母が私に謝ってきた。 「辛いこと全部やらせちゃってごめんね。和泉も辛かったのに、私ばっかり泣いて取り乱して」 「いいよ。お父さんたちほんとに仲良かったから。私がしっかりしなきゃと思って。でも、さすがに疲れたから先帰っていい?」 「そうして。洗濯物とか全部私がやるから、帰ったらもう寝ちゃって」 「うん」  いろいろな荷物を持って私は歩き出す。出口に住職さんがいた。その顔を見て私は小さく笑う。 「……裏目に出てしまったようですね」 「ええ、そうですね。ありがとうございました」  険しい顔をした住職さんを会釈をして私はタクシーに乗った。 「写真ばっかり撮ってるな、そんなに面白い?」 「面白いよ。ねえ、お父さんもやってみない? 今の一眼レフってデジタルだから、すごく簡単だよ」 「そう? 写真かあ、いいかもな。登山の途中でいろいろ撮れると楽しみが増えるかもなあ」 「え、和泉!? どうしてここに」 「えへへ〜、サプライズ! 夕飯の時にうれしそうに話してたからびっくりさせようと思って急いで支度してきたんだよ」 「びっくりしたよ本当に、よく来たなあ」 「ハイキングコースだもん、楽勝! ねえ、この山って木蓮がすごく綺麗で有名なんだって。写真たくさん撮っていこうよ。勝負ね! どっちがきれいな写真撮れるか。負けたら、カリアンの新作バッグ買って!」 「あ、あれ凄く高いやつじゃないか! カメラ買ってお小遣いもうないのに」 「……お金もらったら?」 「いや、娘のバッグ買うのにお母さんにお金くれって言えないだろ。っていうか、勝てばいいんだし。わかった、勝負だ! 素人だからって負けないぞ!」 「ご遺族様には大変心苦しいと思いますが。納棺は私共で行わせて頂きます」 「そんな、どうして!」
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