戻り道は生きる道 帰る道

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「奥様のご心中お察しいたします。しかし、お体の状態が非常に……。見れば非常に辛い思いをされるでしょう」 「はい、警察から聞いています。落ちながら岩肌に何度も叩きつけられたみたいで、全身が酷い状態だったんですよね。ねえ、ここはお任せしよう。私も病院で警察とお医者さんから止められたの、見ない方がいいって。お父さんもきっと私達にそんな姿見られたくないよ」 「そんな、そんな……うう……」 「母を休ませてきますのでお願いします」 「はい」  末期(まつご)の水とか死に化粧とか、なんかいろいろやることがあるらしいけど、できるわけない。頭がつぶれているのだから。  私知ってるよ。葬儀場から火葬場まで行きと帰りは同じ道を通っちゃいけないこと。死んだ人はまだ自分が死んだことがわからずに彷徨ってる。だから帰りは違う道にして、わざと迷わせてしまうようにしている。そうじゃないと火葬場から葬儀場、そして家にまでついてきてしまうから。  だからタクシーには、来た道と同じ道になるようコンビニに寄ってもらった。わき道を通り過ぎなければ行けないところだから、強制的にこの道を通らざるを得ない。  旅支度をしてもらってない。迷うための戻り道もない。あの世にいく準備は、全部できてない。
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