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辺りを見渡してみると泣いている人は多い。参列者の多さがお父さんの人柄の良さを表していると言っていい。働き盛りの四十歳、突然逝ってしまった。私の成人式を楽しみにしていたけど叶わないまま。
私はやらなければいけないことが多すぎてとにかく忙しかった。銀行や保険の手続きとかわかるわけない。まして、母が何もできない状態だからなおさら私がやるしかなくてほとんど寝てない。
私から見ても両親の仲はかなり良かった。私が思春期になって反抗期にもなれば、仲良く二人で旅行するほどだ。普通娘を気遣うだろうに、新婚みたいで楽しかった! と満面の笑顔でお土産を渡すくらい。
そんな母は若々しく見えた。いつも父、いや、「夫」に恋をしていたんだ。だから今一気に老け込んだように見える、たった四日なのに。通夜も告別式も真っ青な顔で座り続けている。
体の損傷が激しいので棺は閉じられたまま。花を詰めることもできない、それがなおさら参列者の悲しみを深くする。最後の姿を見てお別れもできないなんて、と悲しみが広がっている。
「どうして、高塚さん」
「一人で登山行って、崖から落ちたらしいですよ」
「そういえば健康のために運動したいって言ってたわ」
「足滑らせたのかな」
「写真撮るのにハマってて良いカメラ買ったばかりだったらしい。行った山ってきれいな花たくさん咲いてたっていうから」
「じゃあ、写真撮ることに夢中になって足元見てなかったのかもね」
「残念でならないよ、まだ四十歳なのに。お嬢さんはやっと高校卒業だよね? 可哀想に」
「奥さん、大丈夫かしら。あの二人かなり仲良かったでしょ」
「娘さんがいるから大丈夫だと思うけど」
「そんなこと言ったって、娘さんだって悲しいでしょ」
「そうだよな……」
参列者たちのそんな声が聞こえてくる。そっか、両親の仲がいいのは周知の事実だったんだ。それはそうか、お正月とかで親戚で集まれば二人の様子はよく見るだろうし。お父さんは私たちの写真を手帳に入れて自慢話をよくしていたみたいだから。
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