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2ケツ法則ボンバイエ
〓〓素材提供元: H.Motti様
日本最長、日本最大の幹線道路――「敬範仲和幹線」。
それは県内沿岸部の高速道も含めても呼称である。その沿岸部の高速道路は地元では「首都高」と呼ばれていた。
首都高速道路大規模改築計画の試験品としてこの沿岸部の高速道路が建設されていたからだ。
深夜。
その首都を走る2台の二輪車があった。両方ともカップルがツーマンセルで乗車している。爆音を轟かせた猛牛の如く二輪車の速度はとっくに法定速度は突破していた。
「この賭けは俺たちの勝ちだな!!」
「いや、俺らのカップルだ!!!」
首都高もどきを走る2台のバイクはお互いに激突している。ここの地元の暴走族であり、ドッグファイトを含めたレーシングバトルで次期暴走族の頭目の座をかけている。
2ケツ乗りかつ2台のバイクは爆音と爆風となり、首都高もどきを疾駆する。猪武者同士はぶつかり合いを続ける。カーチェイスならぬバイクチェイス。
「互角ですねい」
それはどこからか響いてきた。それをしかと聞き遂げたのは後部座席に座る彼女たちだった。
「ねぇ、ヤバイよ」
「幽霊じゃない? 怖いよ」
彼女たちは彼氏に語りかける。
「うるせいやい!!」
「今、この首都高もどき最強最速の座をかけてデッドヒートをしているんだ!!! お前は黙っとっけ!!!」
男は青春に理性を半分削ぎ落していた。あとはゴール地点まで時間で説くと、1分間もない。先にゴール地点を越えた時には爆音の福男が確約される。多くの同輩、後輩たちに尊敬の眼差しで賛美されるだろう。そしたら後部座席にぷりぷりのケツで鎮座している彼女に最高潮の刺激で貫いてやろう。
「引き分けじゃね。商売になりません」
デッドヒートがラストスパートに近づこうとする時だった。2台のバイクはいきなり飛翔する。それは乗り手の男たちには気づかなかった。後部座席の彼女たちは発見した。飛翔した原因を発見する。
高速道の左右のガードレールを飛び越えていく2台のバイク。両者は反対方向へと飛ばされていく。
「犬? 猫? 笑っている……」
犬なのか猫なのか判別のつかない獣が顔が高速道の街灯に照らされて露わになる。その獣の顔は満面な笑みを浮かべている。
「事故死という扱いで……。そしたらね。他のお客さんは納得するんですよ♪ 金を3分の1だけ返金すればいいだけなんでね」
その獣の顔は微笑みで嘲り、人語を述べる。2台のバイクは海へと落下していく。昼頃は青い海。そこに青い彼らの学生時代は幕引きを溺死で余儀なくされるのだった。
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敬範仲和幹線には2個の区分がある。それは有料区間と無料区間だ。有料区間とは高速道であり、無料区間とは一般道である。その境目が何か所かある。そこは「仲和の小京都」という売りがある都市である。その小京都の城下町は敬範仲和幹線有料区間の乗り口に隣接している。
そこに訪れた脱サラOLがいた。
〓〓素材提供元:背景はメルH様
袖なしのブラウスと緑色のネクタイ、ジーンズパンツをはいている長身痩躯。青いショートカット。陸路玖珂纏がその城下町にバイクに跨って来訪した。
彼女は先月月末に起きた山村で婦女暴行にあいかけてから、別班――正式名称、内閣府情報調査室運用支援別班に雇われて期間雇用の非正規地方公務員となった。彼女の仕事は敬範仲和幹線沿いの市町村の市場調査である。沿線の市町村のニーズを掴み、幹線道路関連の事業を執り行い収益を集めることだ。
「敬範地域には「北都」という政令指定都市もあるし、朝廷の遠い分家の血統が人間国宝扱いされている。歴史的にも古都としての色合いが強いけど……こんな仲和地域の中間地点にこんな街並みがあるなんて……」
バイクを有料駐輪所に駐車させてから陸路玖珂纏は城下町を歩く。古い屋根、古い漆喰、石畳の歩道。県の重要文化財という階級を得た昔のままの繁華街に内装は現代建築でも外装を現代式にするのを条例で禁じ、そのままにしている。
小京都という装飾効果が欲しいのだろう。潮風が海面から漂ってくるが古民家の繁華街はそれに腐食が進まないようにうまく改築されている。
陸路玖珂纏がバイクで法定速度30の車道を徐行していると、子供たちが集まっていた。
そこで風呂敷を広げて、その上にトランプを全て裏面にして散らしている。そこでしゃがみ込みながら客寄せをしている白いテニスウェア姿のブロンドショートの少女がいた。
「HEY♪ ガールちゃんたち♪ ボーイズちゃんたち♪ 寄ってらっしゃい。見てらっしゃい♪ このミーと勝負して勝てば、明日の天気を教えてあげるでーーす♪」
スマホさえあれば、ネットに繋ぎ、簡単に調べられる時代だというのに純粋無垢な子供たちはこうも簡単に怪しい女子高生の誘いにのっかっている。
「1回12円のコーンパフスナック菓子棒価格でこの天気予報の神経衰弱やってみないですねい?」
「やるーーー♪」
疑うということをまだ知らない子供たちはまんまと引っかかる。疑心暗鬼を経て達観するのはようやく20代から30代の合間である。
10円玉1枚と1円玉2枚をしかと受け取り、怪しい|瘋癲女子高生、古庭球姫はガマ財布に収める。
「げこげこ♪」
何故かガマ財布がお金が増えると鳴き声の効果音を発する。それに子供たちは好反応する。無実、無辜、無邪気の子供たちに瘋癲女子高生の騙しの魔の手が近づこうとする前に陸路玖珂纏は独善的に止めようとした。
しかしだ。
「やったー当たった♪ーーー」
「ファルキョン( ノД`)♪ ミーの負けでーーす♪ 明日はーーー晴れでーーす!!!」
陸路玖珂纏の独善は杞憂だった。古庭球姫はなんと子供に偽善的勝利させたのだ。
しかしだ。
次に男の子が挑むもトランプの目は両立しなかった。いや、訂正しよう。子供を騙す悪い偽善者だ。陸路玖珂纏は駆け足で制止しようと試みる。
「初回のお客さんのチャンス♪ ラストチャンス♪ リトライは無料でーーす♪」
男の子は無料で再挑戦の好機を得た。2回目は無事に表面の目を両立させる。そして報酬に天気予報を得る。
「ファルキョン( ノД`)♪ ミーの負けでーーす♪ 明日はーーー晴れでーーす!!!」
同じパターンでは面白くないのだろう。偽善者を加えたようだ。
「瘋癲女子高生!!!」
「せめて弾姫殿って呼称して欲しいでーーす(´;ω;`)オ姉さん(´;ω;`)!!」
古庭球姫は商売をやりながら気づいていた。古庭球姫は児童賭博の即席露天商を中止し、子供たちを帰らせる。
「纏のお姉さんはどしてここにいるんですかーー?」
「球姫がどうしてここにいるのか知りたいけど、私から説明するわ。別班の非正規公務員になってね。この「仲和の小京都」の市町村に対して市場調査をしに来たの。いわゆるマーケテングリサーチ。球姫は?」
「ちゃんづけかちゃまづけもなしですかい……。別班のご公務につかれているなら理解されていると思いまーーすが、日本転覆を企む違法賭博を調査しにでーーす♪」
古庭球姫と陸路玖珂纏は「非正規」で別班と関係を持っているのは同じである。異なるのは陸路玖珂纏は期間雇用されているのでお給金が月給として支給されるのに対して瘋癲女子高生は賭博で稼ぐしかない。未成年というので見事に法に抵触しているが、別班法制局が「合法限度」という謎の取り扱いで違反性違法性なしと判断されている。
「纏のオ姉さん。ミーも販路開拓をしたいので一緒に同伴しまーーす♪ 乗せて乗せて♪ 2ケツ2ケツ♪」
陸路玖珂纏は条件としてバイクのヘルメットを持っているかと提示すると、瘋癲女子高生はスマートフォンを取り出してあるアプリを提示する。
「合法限度アプリ!!! ここに合法限度枠条項があるから読んででーーす」
別班から特別にダウンロードを認可されたアプリ。そこに別班の職員が同乗者及び運転手であれば、ノーヘルは問題ないらしい。
「え!!!!!! 忖度? これ、て忖度?」
「納得♪」
「役得♪ なわけねーーわ!!!!」
陸路玖珂纏はバイクのヘルメットを被ったまま、瘋癲女子高生に頭突きをかます。古庭球姫の額に赤いタンコブができる。焼き上げたお餅の膨らみのようだ。
「……(´;ω;`)デス……」
「いいよ。捕まらないんなら乗りな」
ということで晴れたタンコブを抑える古庭球姫を後部に着席させて陸路玖珂纏はバイクを走らせる。
バイクはこの小京都の中心部に進んでいくと、群衆が中心部の面積を覆いつくしていることに気付く、バイクを停止させる。
「あれは何ですかーーー?」
古庭球姫は指さした方向、そこにこの人海戦術のない群衆の海の正体がある。
木製の車輪が無数についた巨大な木造の神輿がそこら中に点在し、法被を纏う男たちがその神輿――山車を引っ張って走らせている。山車の神輿の屋根には法被衣装の男たちが乗り、手動で牽引している男たちに声援を送っている。〓〓素材提供元:photoB様
「海辺――岸だんじりと呼ばれているここら一体の5月頃に開催される伝統行事よ。春になれば旬の魚が大量でこの仲和の小京都の市町村でたくさん収獲できるの。同時に旬の作物もね。それは海からこの近くを流れる大河へと運ばれた栄養価の高いプランクトンや水質などのお陰。「岸」というのは海の神様であり、それに感謝の意を伝えているのよ」
「つまり春季の豊饒祭ってことですねい♪」
陸路玖珂纏はスロットルを回しながらバイクの進行方向を変えて遠回りをする。山車の神輿が通るルートに入らずに走行していると、喧噪が聞こえてきた。そこは山車の神輿の通るルートと交通規制がされていない一般道の境目あたりである。そこに多くの違法改造のバイクがたくさん停車していて赤い特攻服と白い特攻服を纏った若造たちがたくさん佇みながらこのだんじり祭りを取り仕切る自治会と口論になっている。
「この小京都の沿線は俺ら赤白大軍勢の縄張りだ!!! 即刻、中止しろ!!!」
「オイ!!! ガキ!!! ここの生まれなら岸だんじりがどういう価値があるのか理解できるだろ!!!!」
自治会の十代の少年達と地元暴走族の十代の少年達が襟首を掴みあいながら暴論暴言を交わしている。
「別のところで走れってんだ!!! ここは海の神さん――「岸」さんの聖なる街道だ!!! 何でよりにもよって!!! ここを今、走りたいって言ってんだ!!!」
「俺たち地元暴走族――赤白大軍勢はよ。風の神さん――「龍」さんのためにこの道を今、走るんだよ!!! それでお前らのその山車か!!! 壊してやるんだよ!!!」
「何を言ってんだ? この仲和の小京都といやーーー地元民から愛されている海の神さん――「岸」さんに決まってんだろ!!! 大阪でいえば、ビリケンみたいなもんだ!!! どっかの馬の骨かもしれない神さんを崇めてんだ!!!」
「お!!! お前ら!!! 風の神さん――「龍」さんをディスったな!!! 変な外国の宗教団体みたいなことを言うな!!! 壊せ!!!」
赤白大軍勢の暴走族たちは鉄パイプ、釘だらけバット、木刀などを手に持って山車の各御輿に襲い掛かろうとする。それを自治会の少年達も素手で応戦してなんとか制止しようとする。
春の伝統行事をぶち壊す大喧嘩の火蓋が切って落とされようとしたとき、赤色灯を車上に掲げてサイレン音を鳴らすパトカーが数台、接近してきた。敬範仲和幹線地区局の幹線側武装警察部隊だ。別班は別班法制局を使い、内閣府の指示で現在、。敬範仲和幹線に跨る都道府県の各地元警察の所轄区域をレンタルしている。幹線道路に関する治安は彼らが積極的に鎮圧にあたるのだ。
「赤中隊の中隊長!!! ポリ公が来ましたぜ!!!」
地元暴走族の舎弟が中隊長に報告すると、中隊長は赤い特攻服で構成される赤中隊と白い特攻服で構成される白中隊に号令をかける。
「幹線側武装警察部隊――アームドポリ公だ!!! テメーーら一旦、後退だ!!! 総督府に戻っぞ!!! 白総督に報告だ!!!」
中隊長の号令で地元暴走族たち――赤白大軍勢はバイクや原付に跨りながら爆音と煙を噴き散らすしながらこの場から即座に撤退していった。幹線側武装警察部隊のパトカーから迷彩服を纏った隊員たちが下車して自治会の少年たちに近づいてく。事情聴取だろう。逃げ去る地元暴走族たちを別動隊のパトカーたちが追跡しているようだ。
「あとは幹線側武装警察部隊の隊員さんたちに任せて私たちは――」
「大勝ちできるひとやまの香りがするでーーす♪ 纏のオ姉さん!!! マーケテングリサーチと称して自治会にお話しを聞いてみるでーーす♪ その間はミーは縁日のところで子供相手に的屋をやっとくから♪」
陸路玖珂纏の職務は幹線道路のための収益であり、瘋癲女子高生の提案も廃案するには判断材料がない。溜息をつきながら自治会の本部テントを探すのだった。
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岸だんじり祭りを取り仕切るのは「自治会」。この仲和の小京都を構成する地元市町村の住民の各地区から代表の住民の大人や子供で構成されるこの伝統行事のための毎年短期の臨時共同体。文化保護とか長ったらしい団体名があるのだが、そこに参加している各市町村各地区の代表住民からは「自治会」という愛称で認識されるようになった。
その自治会の本部テント。そこに2人は取材に訪れた。瘋癲女子高生が縁日に混ざり、許可をとらずに即席出店を作り、神経衰弱で子供相手に日銭を稼ぐ。
その反面、陸路玖珂纏は本部テントに陣取る、自治会の最高責任者――「牽き頭」に取材を行っている。
〓〓素材提供元:背景はkakkiko様、犬はclickpapa様。
見た目はパグみたいだと瘋癲女子高生は社会経験がゼロの子供ながら素直にひどいことを口走っていた。それを頭突きで制裁する姉御の陸路玖珂纏。頭頂部に毛髪はなく、左右だけ残っている。無精ひげが口まわりと頬を覆っている。
「初めまして♪ 岸だんじり祭りを取り仕切る「牽き頭」です。本職は御神輿や神社お寺などの宮大工をしております♪」
本人は喋りながら両手に内輪を持って常にリズミカルに反復横とび風味に踊っている。
「私は別班の道路沿線の市場調査を担当している者です。先ほどの若い子らのトラブルについてお聞きしたいんですよ」
陸路玖珂纏はお辞儀をして名刺を差し出す。パグに似た中年男性はそれを受け取り、渋い顔をする。
「本当に……あの子らには……困っているんですよ……。赤白大軍勢……去年……結成されたばかりのここら地域の暴走族の連合組織です。かつて――30年前ですかね。海の神さん――「岸」さんにちなんで赤岸軍団、白岸軍団と名乗り、両軍はよくこの小京都でレースや大喧嘩を繰り返してきました」
「赤と白の違いは?」
それはこの仲和の小京都が「赤」と「白」という地域の名称に由来があるようだ。
「30年間、両軍のガキ大将はトップを「総督」、その右腕を「中隊長」って呼んでました。30年間という長い年月となれば、半グレ化もしていったんでしょう。OBたちとの交流のパーティを開くくらいですよ。し、かし去年、永遠のライバル関係である両軍が合併したんですな。いきなり……」
「それが……赤白大軍勢……」
「そうです……。合併してから……いきなり少年たちは風の神さん――「龍」さんというのを……崇め始めたと言えばいいんでしょうか……。わしらの伝統とするこの春祭りは……宗教色は絡みますよ……。崇拝というよりは……感謝と……いうべきか……」
日本各地で催されるお祭りというのは「宗教」というのを含んでいるが、それは土地神に対しての感謝と祈願を伝えているだけであり、新興宗教の「崇拝」とは異なる。
「風の神さん――「龍」さんとはいったい?」
「わしはそういう民俗学的なものはさっぱりなんですが……。死んだじいちゃんやばーちゃんから聞いた昔話によれば……。この小京都の作物や魚を食い荒らしてきた悪い神さんだったらしいですわ。それを海の神さん「岸」さんが自分のお腹のなかにその「龍」さんを閉じ込めて……溺死させたというやつですわ。わしが子供のころ……いたずらばっかりしたり嘘つきまくったら風の神さん――「龍」さんに誘拐されるとか……。そんなんでよく怖がらされたもんですわ。しっかし言うても大正、昭和の話でして……令和になれば……口伝も廃れて「龍」さんを知っている大人、てもう少ないですよ……」
海の神様は毎年、春祭りをするので地元民から認知されて愛されている。「龍」さんという風の邪神は、科学的なものが普及しまくった現代ではその効力は一切なくなり、今の世代の大人や子供でさえも知らないはずだ。しかし去年、合併した新興暴走族「赤白大軍勢」はそれを知り、信仰と大差ないほど暴徒化しているのだ。
「そいや……先週でしたか……ここから乗り口のある先――有料道路――首都高で……彼らの暴走行為による転落事故がありましたな……」
首都高といえば、この敬範仲和幹線を利用するドライバーやライダーならば誰もが知っている東京の首都高改築のために実験的に作られた首都高の贋作高速道である。
「次期トップ――白総督のポジションをかけて先代中隊長と中隊長候補が恋人を同乗させてバイクレースをしたんだ。猛スピードを出しすぎてコースアウトして海面に転落。水死体で発見されたという痛ましい事故があったんですよ……。とりあえず……あのまま彼らを放置すると……明日で終わるこの春祭りの後半に襲撃されて台無しになりそうで怖いですわ……。別班に相談するしかないですな……」
牽き頭も困り果てていた。
陸路玖珂纏は聞いたことをスマートフォンのメモアプリで書き留めながらお礼を言い、立ち去ろうとする。すると、出し物を終えた古庭球姫が合流してきた。それなりに儲けたようだ。子供にはうまく偽善を施し、楽しませたようだ。良い風に騙したというわけだ。
「纏のオ姉さん!! 一部始終を聞かせてもらいました~~♪」
「かなりの地獄耳ね……」
「彼らのいる総督府、てところに行ってみるでーーす♪ 彼らはこの春祭りを風の邪神のためにブチ壊したい……。それを防ぎ、この春祭りを守り切ったら幹線道路のランニングコストの収益のためにもなりまーーす♪」
古庭球姫の言う通りだが、そもそも陸路玖珂纏は非戦闘員であり、その本務は幹線側武装警察部隊の役目だ。だから新興暴走族への取材を拒否ると、古庭球姫は怪しいウインクをして微笑しながら人差し指を出して
口を開く。
「あくまでマーケテングリサーチですから♪」
瘋癲女子高生は日銭を儲けるために何か悪だくみをしているのは明白だった。
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仲和の小京都の車道を古庭球姫と陸路玖珂纏はバイク2人乗りで走っている。敬範仲和幹線ではない。先ほど、幹線側武装警察部隊のパトカーの別動隊が追跡した道路である。途中で幹線側武装警察部隊のパトカーを1台発見する。そこの隊員に陸路玖珂纏は状況を聞く。隊員は敬礼をして回答してくれた。
「期間雇用の方ですね。まかれましたよ。一応、明日の岸だんじり祭りの後半の奇襲の危険性があるので警備を強化しますので大丈夫ですがね」
「ここから先に何があるんですか?」
「敬範仲和幹線の有料区間の乗り口ですね。――あとは倒産した倉庫業の会社の廃墟ですかね」
追跡に失敗した別動隊の大半は詰所に戻り、1台だけが一応、暴走族が
現れないか見張りをしていたが結局、暴走族は姿を現さず撤退を始めるそうだ。
陸路玖珂纏たちはそのまま車道を進み、高速道の乗り口あたりまで目指す。もしかしたらその乗り口の近くにある倉庫業の会社が手放した廃墟に手がかりがあるかもしれないからだ。
乗り口の手前にその倒産した会社の廃墟があった。
そこに黒い特攻服を着た金髪の少年がいた。箒のような髪形をしている。よく見てみると、その髪は金色に染めたのではなく地毛のようだ。目も碧眼であり、古庭球姫と同じ日系白人である。その少年は周囲をきょろきょろと眺めながらスマートフォンで誰かと会話をしている。通話を終えると、古庭球姫は話しかけた。
「HEY!! ユーはそこで何をしているんですか?」
黒い特攻服の白人の少年はビビりながら反応して低姿勢で対応する。
「警察じゃ……ないんだね……。ぼ、ぼ……僕は……見張り……かな?……新参ものなんで……へへっへへへ……」
愛想笑いをする少年。廃倉庫から1人の赤い特攻服を着た暴走族の少年が現れる。
「オイ!!! 幕下之内!!! そいつら誰だ!!!」
呼び捨てにされた少年はビビりながら赤い特攻服の少年に回答する。
「し、知らないです……。綺麗なお姉ちゃんたちですよね……あははっは……」
幕下之内と呼ばれた白人少年は赤い特攻服の少年に軽く小突かれる。赤い特攻服の少年は陸路玖珂纏たちの容姿を足元から顔まで味わうように眺めると、下卑た笑いを浮かべる。
「何だよ♥ お姉ちゃんたち♥」
「私たち……ちょっと……あなた達の走りに興味があって……詳しく……教えてくれない?……」
「いいぜ♥ おい!!! 幕下之内!!! このお姉ぇさんたちを案内しな!!! 先月、俺らが壊滅させた暴走族――黒岸軍団の残党であるお前を俺たちの舎弟として傘下に入れてやったんだ。少しはパシリとして立派に勤めを果たせよな!!!」
「へ……へい……」
そう命令して赤い特攻服の少年は先に廃倉庫の中に入る。どうやらそこが彼ら暴走族の連合軍――赤白大軍勢の秘密の本拠地のようだ。2人の狙い目は正しかった。陸路玖珂纏たちは幕下之内に案内されて廃倉庫に入っていく。
「幕下之内さん……黒岸軍団、て?……」
「数年前に……両軍から脱退した暴走族で結成された別勢力で……先月……風の神さん……「龍」さんを小馬鹿にしたら……あっけなく潰されました……。ぼ、僕は命乞いして……彼らのパシリになってます……へへへ……」
幕下之内はかなりこの暴走族にビビっているようだ。彼らの赤い特攻服、白い特攻服を何故着用しないのかと訊くと、まだ試用期間だからである。
廃倉庫の中から聞こえてきたのはバイクや原付の爆音だった。中で走り回ったり、駐車してバイクに乗ったまま、談笑を交えている。白い特攻服の少年達と赤い特攻服の少年達がたくさんたむろしている。〓〓素材提供元:背景はおんり様、暴走族はkazuk様、下手な絵柄の暴走族は作者です。
幕下之内はメンバーのひとりに幹部に取り次いでくれと頼む。そのメンバーの少年は笑いながら了承してご褒美と称して幕下之内の側頭部を殴る。幕下之内はへらへらと愛想笑いを浮かべながら返礼を述べる。まるで玩具のように扱われている。
メンバーが奥の方でバイク2人乗りで走り回っている赤い特攻服の少年たちを呼ぶ。すると、呼ばれた赤い特攻服の少年達はバイクでこちらの方へと突進してくる。古庭球姫と陸路玖珂纏にぶつかりそうになる寸前で急停車する。高笑いをする。
「中隊長♪ 良い女性達ですよ♪」
バイクを運転するのが直属の舎弟であり、後部座席に跨るのは昼間、岸だんじり祭りに襲撃をしかけてきた暴走族たちのNo.2のようだ。口元を白い布で隠している。片手に黄色と黒のツートンカラーの棒で武装している。
「ようこそ♪ 地元連合暴走族――赤白大軍勢の拠点――総督府へ♪ 俺様は喧嘩を指揮りをやっている「中隊長」っていう役職についているんだ」
中隊長は幕下之内を何回軽く殴りながら玩具にして自分の強さをアピールする。陸路玖珂纏は作り笑いをするものの内心では彼らを軽蔑していた。
「私たち――あなた達に興味がありまして……風の神様――「龍」さん、ていうのを教えて欲しいんですよ♪」
あえて崇めているとかそういう禁句は使わない。暴徒化している以上、狂信に近い。中隊長はそれを聞くと照れはじめる。
「仕方ないな~~♪ 俺様が教えてもいいんだけどよ~~~。ここは……白総督に譲るぜ♪ 白総督ぃいいい」!!!!」
中隊長が呼ぶと奥の方からリーゼント頭で白い特攻服の暴走族がバイクで走行してくる。2人乗りの中隊長と同様、突進してきて古庭球姫と陸路玖珂纏にぶつかりそうになる寸前で急停車する。高笑いをする。
「俺はよい……このチームを率いる「白総督」というトップリーダーだよい。あんたらが……俺らに興味があるのは?」
「へへ……そうですよ♪ 白総督♪」
横から愛想笑いを浮かべながら話しかける幕下之内に白総督は横蹴りをかます。幕下之内は笑いながら転倒して教育していただき感謝するとお礼を述べる。
「うちの新入りが邪魔したすまねぇ。で? 風の神さん――「龍」さんについて教えて欲しい、てわけだな?」
「そうですね♪」
「いいぜ♪」
白総督は語り出した。
去年、この仲和の小京都を2分する両軍の暴走族は毎年、毎月、毎週、毎日と抗争に明け暮れていた。両軍にとって抗争は恒例行事であり、彼らは彼らなりに海の神様――「岸」に感謝をしていた。去年の夏、白岸軍団のNo.2である「中隊長」が風の邪神――「龍」についての話を持ってきた。首都高もどきの有料区間でレースをして勝敗を決めれば、この仲和の小京都最高位の「福男」になれるとである。その証拠に風の邪神「龍」に関する古い文献を見せてきた。両軍の暴走族はそれを信じて抗争を即刻中止し、1個のチームとして合併した。そして毎月、毎週、毎日と有料区間でレースをして毎月、毎週、毎日の福男を決めていた。
「先週……。次期幹部の座をかけてレースで競い合った先輩たちが転落して溺死した……。それで後輩の俺たちがレースをして幹部の座を勝ち取ったわけだ。「龍」さんの神さんの座を奪ったのは卑怯者の「岸」だ!!! 今回の岸だんじり祭りをブチ壊して俺らの神さんをこの仲和の小京都のシンボルにするんだよ!!! 新たな暴風をこの沿岸の小京都に吹かせるんだ!!!」
教えてくれたので陸路玖珂纏がお礼を述べると、古庭球姫はいきなり提案を申し出た。
「白総督さんがたのその独善は大変素晴らしいでーーーす♪ ミーと纏のオ姉さんのバージンをささげたいくらいうれしいです♪」
「こら!!! 球姫!!!」
陸路玖珂纏は目を丸くして愕然とし、怒る。白総督と中隊長を含めて暴走族たちは一斉に下卑た喜悦の声をあげる。まるで盛った猿の群れである。
「ただし条件でーーす♪ 白総督さんと中隊長さんはミーたちとあなたがたのルールでその福男を決めるバイクレースをしたいでーーす♪ ミーたちも福女になって福男に抱かれたいでーーす♪」
「こら!!!! 瘋癲女子高生!!!」
憤慨する陸路玖珂纏に古庭球姫は小声で話しかける。
「(オ姉さん。ミーには山村で見せたあの攻撃があるでーーす♪)」
そうえいば、山村の若い奴隷を欲していた住民たちを消失させた謎の超能力的なものを瘋癲女子高生は使えたのだ。
「じゃーー♪ オ姉さん、張り切っちゃおおお♪」
これで交渉は成立した。もしレースで陸路玖珂纏に古庭球姫が勝てば、この暴走族の女白総督に就任していいというのだ。
「おい!!! パシリ!!!」
白総督は幕下之内にバイクの後部座席に跨るように命じる。
「お前は白中隊長からこのレースの持ち味である暴風を体感させるようにショートメッセージが届いたんだ!!! 白総督である俺がわざわざレクチャーしてやるよ!!!」
白中隊長。赤白大軍勢の現トップリーダーである白総督が慕っている古株の中堅幹部である。中堅幹部の地位にいながらトップリーダーの地位を欲さず、新入りの暴走族への教育に情熱をそそいでいる。白中隊長は年齢的にはなんと30代後半を迎えている。定職についていないが、暴走族へメンバーたちが毎日支払う1000円の会費を生活費をまかなっているようだ。去年、1個のチームとして合併する以前もライバル関係にあった旧赤岸軍団からも義援金として献金されるほど、現中堅幹部――白中隊長の存在感はでかかった。
「白総督!!!! ありがとうございます!!!」
幕下之内は土下座してお礼を述べる。そして白総督の愛車の後部に飛び乗る。
「さーーー♪ レースを始めるかい♪」
こうして陸路玖珂纏に古庭球姫のバージンをかけたレースゲームがスタートした。
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仲和の小京都の有料区間を走り抜けると、見えてきたのは仲和の都心と呼ばれる都市部である。それなりに高層ビルが並んでいる。
ビル街に面した高速道を3台のバイクが駆け抜ける。
「どーした? 俺らは毎月、毎週、毎日、レースに明け暮れているんだ!!! 特に運転テクニックは白総督に匹敵するんだからよ!!!」
「中隊長の腕前は惚れ惚れします♪」
先ほど、2人乗りをしていた赤い特攻服の先輩、後輩は運転手を交代する。レースが始まってからは2位をキープ。そしてトップスピードでこの首都高もどきの最速最高位に君臨しているのが、赤白大軍勢のトップリーダーである白総督である。
そして最後尾を甘んじているのが陸路玖珂纏と古庭球姫である。
「ねぇ……違法速度で毎日、レースで鍛えている少年たちに私が勝てるわけないでしょ?」
「そうでーーすね♪」
呑気に瘋癲女子高生が回答したので、陸路玖珂纏は肘打ちで叱る。勿論、瘋癲女子高生も愛用のテニスラケットを取り出す。競走で真剣勝負しても勝機はそもそもない。
逆転を産むのは、仲和の小京都に風の邪神を広めるという彼らの独善ではなく、瘋癲女子高生の偽善だ。
それに気にせず首位を独走する白総督と幕下之内。幕下之内は興奮していた。
「凄い!!! これが首都高の暴風♪」
「だろ♪ 卑怯者の「岸」は俺らを騙していた……。だが、白中隊長が布教してくれた風の神さん――「龍」さんは俺らに新たな革命をもたらしてくれた。これで仲和の小京都は俺らが変革するんだ!!!」
「さすがは白総督!!!」
幕下之内は拍手しながらトップリーダーを賛美する。先週、幹部とトップリーダーの座をかけて先輩カップル同士で競い、溺死という悲劇を歩んだ。それから古株の中堅である白中隊長から指名がかかったときに現トップリーダーである白総督はとても嬉しかった。
「うわぁあああああぁあああああ!!!!」
背後から悲鳴が響いてきた。白総督はサイドミラーから後方を確かめる。
中隊長と専属舎弟が2人するバイクに後方から1個の卵が飛来してきた。
中隊長の顔面にぶつかる。そして卵が割れて中から小さいトランプカードが出てくる。それはクローバーだった。
続いて古庭球姫はまたもや卵をテニスラケットで打ち込む。今度は後部座席にまたがる専属舎弟の顔面にまたもや直撃して卵が割れる。中からトランプカードが出てくる。それは違う数字とマークだった。
「何だよ!!!」
「残念♪ 無限の彼方へ誘ってあげま~~す♪」
専属舎弟が持っている2枚のカードの絵柄と数字がいきなり道化師の絵柄に変わる。その道化師はアニメのように踊り出して男性を嘲笑う。
「シーツオープン♪ ブラックボール♪」
中隊長と専属舎弟が2人するバイクの側面に突如として真っ黒な穴が出現する。その黒い穴から黒い火花が発生している。その黒い穴はそのバイクを吸い込もうとする。中隊長と専属舎弟はバイクか落車して脱出する。バイクはそのまま黒い穴に吸引されていく。
「え? え?」
中隊長と専属舎弟は落車しているがケガをしたかもしれないが動いているので即死していないようだ。
2位を瘋癲女子高生と陸路玖珂纏が奪う。その時、彼女たちのバイクのスピードが急上昇して首位を独走中の白総督と並走する。
「白総督!!! 中隊長たちが……」
「お、お前ら!!! 何をしやがった!!!」
「配管工事キャラクター社用車デッドヒートごっこでーーす♪」
「意味不明なことを言うんじゃないの!!!」
白総督はこのまま側面から飛び蹴りをかまして対戦相手のバイクを転倒させようとする。しかし蹴りを飛ばそうとしたら卵が飛んできた。瘋癲女子高生がテニスラケットで飛ばしてきたものだ。
「ホワイトボールをベッド!!!」
生卵は白総督の顔面に衝突する。割れて中から1枚のトランプカードが出てくる。ハートだった。そして再度、古庭球姫は次弾の生卵を打ち飛ばす。その次弾の卵は後部座席の幕下之内の顔面に命中した。割れて中からトランプカードが現れる。ダイヤのマークだった。マークと数字が不釣り合いだった。それを見て幕下之内は目を細めて黙り込む。
「…………」
「残念♪ 無限の彼方へ誘ってあげま~~す♪ シーツオープン♪ ブラックボール♪」
2枚のトランプカードの絵柄が道化師に急変して絵札の道化師は嘲笑う。バイクの横の空間にいきなり穴が現れる。
幕下之内と白総督は落車してバイクを手放した。バイクは黒い穴へと吸引されて消失する。
首位を奪った陸路玖珂纏はバイクを停車させて振り返る。
「私たちの勝ちはほぼ確定ね♪」
「ひ、卑怯だぞ!!! お前らは風の神さん――「龍」さんを騙した仇敵――「岸」と一緒だ!!!」
白総督は立ち上がって抗議する。
「新入り!!!! こんな卑怯なことをする奴らに硬派の価値観を叩き込んでやろうぜ!!!」
白総督が命じると、新入りのパシリは無視した。それに白総督は激昂して殴ろうとする。振り上げた拳を幕下之内は片手で鷲掴みにした。幕下之内の片腕が黄色い体毛をして黒い点のまだら模様ができている。それはまるで獣の体毛のようだった。そして白総督の握り拳を鷲掴みにしている掌も同様に黄色い体毛に覆われていた。しかもかなり大きい。白総督の拳を握りつぶした。
「うがぁあああああああああああ!!!!」
「白総督……このレース賭博もここまですよ……。せっかく暴利を稼いできたのに……」
拳を握りつぶされて白総督は甲高い悲鳴をあげる。状況が理解できていない。幕下之内は大先輩である白総督のことを嘲笑っている。
「お……お前……俺らはどうかは知らないが……白中隊長は……お前を……育ててくれと……認めてくれて……いるんだぞ……」
「1度の会ったことのない白中隊長をいい加減、怪しいと思えよ♪ 30年前……地元暴走族……白岸軍団と赤岸軍団の結成に大いに貢献したのは確か白中隊長の父親だったよな♪ 両軍は30年間、毎年、毎月、毎週、毎日と抗争に明け暮れた♪ そして去年、白中隊長と名乗る人が両軍に風の神さん――「龍」さんに関する古い文献を持ってきて教義を述べた……。アホどもはまんまと妄信してくれたな♪ 猛進大好き猪武者ちゃんたち♪」
まるで何かの真相をだらだらと幕下之内は語り出す。幕下之内は先月、壊滅させた小規模地元暴走族の黒岸軍団の末端の舎弟である。自分たちのことの30年間に渡り、口伝で継承してきた青春を知るわけがない。
「黒岸軍団に関しては予定調和さ。いがみあう両軍から脱退して群れる第三勢力もあるだろうさ。天下三分の計とかいうやつかな♪ だが、これも世界中の顧客たちのために日本のド田舎で賭け事バイクレースをするために全ての布石さ♪ 30年前からのな♪ まず2大地元暴走族勢力を創設し、互いに争わせ競わせて……あぶれた野良どもから第3勢力を作り、均衡を保たせて成長させる。そして最終的にどうでもいい古い文献で騙して1チームとしてまとめてレースゲームを毎日させるように日常化させる……。これは国際規模違法賭博さ♪」
幕下之内は獣の体毛で覆われる片腕を巨大化させて白総督の頭部を握りつぶそうとする。だが、そこに黒い卵が飛来してきた。それに気づいた幕下之内は飛び跳ねて後退する。黒い卵は地面に落下すると爆発した。
「それは爆死限定のみの賭博……敗戦確定路線……ミーの見立ては間違いじゃなかでーーす。そこの男子高生……死にたくなかったら……逃げるでーーす」
白総督は重傷をおった片手を抑えながら駆け足で高速道から逃げてさる。
「ミーのもうひとつの祖国、アメリカ転覆を企んだ国際犯罪シンジケート……」
「国際犯罪シンジケートとは心外な……日本とアメリカ様抜きで世界国家計画を進行させたいんだよ。僕たち……はね……Intergovernmental Panel on expansionism――「領土拡張に関する政府間パネル」……IPEは……」
「え? 世界国家計画?」
同伴している陸路玖珂纏にはい同じ異国の血をひく女子高生と男子高生の会話が壮大すぎて理解いけていない。
「敬範仲和幹線の最南端である山岳地帯で脱サラのOLたちを誘い込み、山村で拉致監禁させて子供を量産させる悪巧みにもあなたたちはアドバイスしていでーーすね!!!」
恐らく陸路玖珂纏を農業ほのぼのライフとして騙したあの壊滅集落に等しい山村などのことだろう。
「東側諸国、西側諸国とかそんな単純な線引きじゃないかな♪ それよりも昔からあるよ♪ そもそもアメリカ様や君らは僕らの方が歴史が古いよ♪ 古典的伝統的なゲーム性の世界史を重んじているんだよ♪ IPEはその世界最古からの文化を守っている無色透明の宗教♪ そして……」
幕下之内が話す内容が廚二病すぎて闇深く理解できないのは当然だ。
「都市伝説の不都合な側面への模範解答を以て、IPEは「私闘」という「死闘」を行うことをこの無色透明の宗教最上位の原則とする!!!」
難解すぎる専門用語が飛び交っている。
ただ、理解できるのは幕下之内は上着を脱ぎ棄てる。肌着の脱ぎ捨てる。上半身半裸になり、すると、急速に肉体が巨大化する。まるで大きさといえば、2人分の背丈はある仏像くらいだ。上半身が全て黄色い体毛に覆われて箒頭の頭部も体毛に覆われる。それは半獣人と呼んでもいいだろう。
だが、狼男ではない。頭部を覆う獣の顔はアフリカにいる肉食動物を連想させた。それは――
「漁夫の利を総取り……それが僕の都市伝説の不都合な側面への模範解答……」
ハイエナの半獣人。それが幕下之内の本性だった。
「ね? 都市伝説の不都合な側面への模範解答、て何なの?」
「例えばエジプトのピラミッド。あれは都市伝説では宇宙人によって作られた言い伝えもあれば……地底人に作られた言い伝えもある……別では神様によって作られた言い伝えもある。そしてエジプト政府を裏から操るエジプト王家の末裔という言い伝えもある。どれも矛盾で不釣り合いが生じ、その複数の口伝が都市伝説の皮を脱皮できないので、ある学者はこういう仮説で補正することで模範解答を導き出したでーーす。それは無数にある多元宇宙の並行世界の法則性で解決できるのではないかと……」
「ご高説がうまいね♪ アメリカ様のメス犬は♪ 僕らIPEはその仮説から新たな原動力を発見し、それを抽出し人体に反映させた……それが……」
ハイエナの半獣人である幕下之内は襲い掛かってきた。
「哺乳人類へと進化したハイエナが反映した並行世界を体現した特殊能力さ!!!」
大きくて鋭い掻き爪の斬撃が陸路玖珂纏を引き裂こうとした時だった。真っ黒な生卵が飛来してきた。それが幕下之内の爪攻撃を防ぐ。
「特異点と化した地球。もしやアメリカがその可能性からの採取に成功するとはな……成功例はいまだにない……」
「日本も協力したからだでーーす!!!」
古庭球姫はテニス選手ように身構えて片手に白いな叉後を発生させる。
「この仲和の小京都を……30年前から暴走族レースというギャンブル計画で仕込んできたのさすがは国際規模の違法賭博集団ですねーー!! ホワイトボールをベッド!!!」
お得意のトランプの神経衰弱で目が揃わなかったらブラックホールという異次元ゴミ箱へと対戦相手を捨て去る特技を決行する。
幕下之内の顔面に真っ白な卵がぶつかり、割れてトランプカードが発生する。それはダイヤのカードだった。次弾の生卵を古庭球姫は打って相手へと叩き込む。カードの目が揃わなければ、ブラックホールのゴミ箱へと対戦相手を掃除機のように吸引して捨てることができる。
「都市伝説の不都合な側面への模範解答……漁夫の利を総取り……威力は何も僕自身を半獣人にするわけじゃないぞ!!! この可能性は大当たりの可能性の高い漁夫の利を得れるんだ!!!」
次弾の生卵がぶつかり割れる。中からトランプカードが1枚出てくる。それと初弾の生卵のカードと同じダイヤと数字が揃い踏み。それで幕下之内はブラックホールの穴に吸引されるという困難を逃れた。
「僕はただのハイエナ獣人じゃないよ♪ 楽して勝てる可能性を体現しているんだ♪」
幕下之内は微笑をうかべていると、瘋癲女子高生は邪悪な笑みを浮かべている。
「それはYouの単なる独善的な思い込みでーーす♪ ミーの特異点と化した地球には目には何もブラックホールだけの特性だけが備わっているとは言ってませーーん♪ Youに漁夫の利を得れるという可能性を体現できるように……ミーの都市伝説の不都合な側面への模範解答には……目にはフシ穴というその並行世界の効能がありまーーす!!! それがミーの偽善でーーす(^_-)-☆♥」
幕下之内は瘋癲女子高生の言葉の意図が読み取れない。神経衰弱ブラックホール攻撃はそもそも通じない。見落としを防ぐ可能性がこの漁夫の利を総取りの真価であるからだ。
「バカめ!!! 貴様をこの鋭い凶刃の如き爪で引き裂いてやる!!!」
幕下之内は猛襲する。猪のように。一応、この地元暴走族の端くれであり、どことなく暴風の邪神――「龍」様を信じていた。騙した暴走族ども蹴られて殴られて小間使いにされても裏から牛耳っていたのは全て自分自身である。漁夫の利を総取りは加齢という限度も突破して不死ではなくとも不老長寿という可能性を生み出してくれた。
漁夫の利を総取りは都市伝説の不都合な側面への模範解答の中でも比類なき最強の特殊能力などだと自負していた。
目前に真っ黒な生卵が飛来してくる。それは手榴弾ほどの威力しかない敗戦確定路線。一応、それは最小最弱すぎる宇宙生誕なのだ。顔面に直撃する。宇宙最小最弱すぎる宇宙生誕とて手榴弾の威力は発揮してくれる。見事、 幕下之内の頭部を爆撃して粉々にした。
「漁夫の利を総取りの唯一の弱点は……ミーでーーす♪ それが目にはフシ穴という可能性を体現したでーーーす♪ あなたはそれを見落としてしまったでーーす♪」
幕下之内は絶命したようだ。陸路玖珂纏は言葉が出てこない。以前、山村でもそうであったが、超常現象になっていない。一応、異能者同士のバトルものなのだろう。
この日本を取り巻く周辺諸国が黒幕といってくれたらまだ理解できた。「Intergovernmental Panel on Expansionism」――「領土拡張に関する政府間パネル」――「IPE」。彼らこそが別班が危険視している違法賭博の国際犯罪ネットワーク。「都市伝説の不都合な側面への模範解答」という「異能」。まだ不可視の握力で物体を歪曲させたり、海の向こう側の異国の人間に話しかけたりする超能力。手から火の玉や氷の猛吹雪とかを発する魔法。それとは全くの歴然の差たる別の可能性をもった並行世界を自身の肉体に体現させることができる特殊能力。
「私は……日本は……どうなるの?……」
「纏のオ姉さん♪ どうにも何も……純粋に偽善賭博でーーす♪ ミーはあいつらの独善的押し付けに対して射幸心を煽られて偽善賭博で競い合っているだけでーーーす♪ こうしてこのレースはあと、ゴール地点を独走して突破して報酬の女白総督の権力をもらうだけでーーす♪」
「はは……そだね……。とりあえず後ろに乗りなよ……ゴールを目指そう♪」
首位を手にして文字通り敵なしとなった瘋癲女子高生と元OLの期間地方公務員は2ケツでバイクで走り出す。
レースのゴールを突き抜ける。
➡ ➡ ➡ ➡ ➡ ➡ ➡ ➡ ➡ ➡ ➡ ➡
➡ ➡ ➡ ➡ ➡ ➡ ➡ ➡ ➡ ➡ ➡ ➡
翌日。仲和の小京都と呼ばれているメインストリートの各所では岸だんじり祭りの後半戦として山車の神輿が複数台、走行している。
「よい!!! よよいのよい!!!」
「海の神さん――「岸」さん♪ 今春も新鮮な魚と作物がとれました♪ 感謝します~~♪
祭りに参加している自治会の人らだけでなく、それを見物する地元住民、観光客も感謝の意を海の土地神へと伝える。
但し昨日と異なっていたことがあった。
交通規制されたメインストリートの外周の車道を爆音と煙を噴きだしながら数十台の違法改造のバイクや原付が昨日まで風の邪神「龍」を妄信していたというのにたった一晩で元々の土地神へと感謝の意を伝えていた。
一晩で戻ったのだ。
それは新たに頭目となった瘋癲女子高生と元OLの期間地方公務員の命令である。以降、彼らは法定速度の枠組みでノーヘルではなくてきちんとヘルメットをかぶって走る礼儀正しい硬派となっていた。
「グッド♪ グッド♪ グッドエブリディ♪ 春でも真夏のように篤くなってきまーーす♪」
見物客として陸路玖珂纏と古庭球姫は群衆に混ざっていた。今回のマーケテングリサーチは成功した。自治会を通して幹線道路への献金は増えただろう。もしも地元暴走族を騙してこの小京都を裏から牛耳ろうとしてた悪人の独善が成功していたら大昔から続いているこの春祭りは滅んでいただろう。
瘋癲女子高生は女性用の法被を羽織って両手に祭りの内輪の2刀流になり、祭りのムードに溶け込んでいた。日銭にしか興味がない偽善者の女子高生が踊りながらそこにいる。
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