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電気街展示品鑑定団
そこは日本最長、日本最大の幹線道路――「敬範仲和幹線」の北部地域の「敬範」を構成する市町村のどこかにある貸会議室。
そこにセミナーだと称して集まっている連中がいる。それぞれが背広だったりと民族衣装だったりと出で立ちが異なりすぎる。一応、表面上は「国際異文化コミュニケーション勉強会」というものである。日本人も少数はいるが、大半が在日外国人である。
「幕下之内家の連中に一任していた暴走族レースが壊されてしまった……。それなりに金回りは良かったんだけどね……」
「どーーするのさ? 別班は我々――日本校への捜索に躍起になっているね……」
彼らは日本を転覆させて私有地化を狙っている国際犯罪ネットワークである。「Intergovernmental Panel on Expansionism」――「領土拡張に関する政府間パネル」――「IPE」という組織。
「それを決めるのが朕の望みぞよ……」
「競合他社の女帝閣下……」
レースクィーンの服装をした少女が彼らの中心に佇んでいる。
腰まで届く桃色の長髪。真っ赤なレースクィーンの服装。同色のニーソックス、同色のミニスカ。片手には日本刀を帯刀している。日本最古にして日本最良といわれた伝説の名刀――「悪国」である。別の意味では最強最悪の妖刀もいわれている。
「どうされたら良いでしょう? このままだと帝都の逆鱗にふれます」
「承知しておる……帝都の繁栄は……朕を含めて先祖代々の悲願じゃ……。そうじゃな……この敬範の北西部沿線の市街地にあ奴らをブツけて見ようかのう……」
「あ奴らとは……あ!!!!……」
競合他社の女帝の目論見を帝都会員たちは理解していた。
「秋葉原の真似事をして……本家に勝てるわけがなかろうて♪……」
競合他社の女帝の判断はやはり世界最古の一族の血統である。臣下たち――帝都会員は従うのみだった。IPEの日本私物化は着々と進んでいた。
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日本最長の幹線道路、「敬範仲和幹線」の北部地域の「敬範」では東西に分かれる対立軸がある。
「ウェスタン」と「北都」である。北部地域東側の政令指定都市「北都」は県庁所在地であり、ここら一体最古の古都である。国の支援も手厚い。
逆に「敬範」の西側の「ウェスタン」。
正確には「ウェスタン電器」である。ここら数個の都道府県に数店舗を構える辺境最大の家電量販店である。その総本店が西側にある。ウェスタンが親会社をつとめる各業界の企業がたくさんあり、ウェスタン電器は家電量販店ではなく複合企業でもある。
〓〓素材提供元:背景はspaceman様
ウェスタンの本社城下町である「電機街」に朝から陸路玖珂纏が訪れた。袖なしのブラウスと緑色のネクタイ、ジーンズパンツをはいている長身痩躯。青いショートカット。それが彼女のスタイルだ。
別班の期間雇用非正規公務員。幹線道路沿線の市町村の市場調査。先週、幹線道路南部地域にある小京都で起きた市場調査でかなり貢献したため、臨時ボーナスが支給された。
それで思いついたのが高性能のノートPCを欲しくなったことだ。
「タブレットやスマホが最盛期の昨今、ノートPCが欲しいなんてオワコンと思われてもね。私が欲しがるのがセカイ系世代の慣習なのよ。肉体が疼いちゃうの♪」
愛車のバイクを1日駐輪激安のところを探して預けてから徒歩片道30分かけてウェスタンの電機街にやってきた。
電機街とえいば、いわずとしれた秋葉原、大阪日本橋、大須だが、そんな利便性の高い地域に住んでいない住民にとっては紛い物ものでも充分だ。
幹線道路をはさむこの電機街。陸路玖珂纏は各店舗を回りながら納得の品物がないか探す。ネット通販でポチポチできるが送料を勿体ないと思うゆえに陸路玖珂纏は足で節約することを喜びとする。
「そいや本屋<栞梨>、てここにもようやく支店ができたのね」
本屋<栞梨>。同人誌販売で一世風靡して日本全国の政令指定都市に支店を構えている。陸路玖珂纏は北都の支店に足げなく通っていた。しかしウェスタンにも支店を構えたと知って興味を持っていた。
本屋<栞梨>の支店ビルの前を通過しようとした時、店からいきなり巨漢が現れた。思わずぶつかりそうになり立ち止まる。巨漢はダークブラウンのスーツ姿で金髪の頭髪、あきらかに海外の人間だった。
「おうん!!! すいませーーーん!!!」
「いえ、こちらこそ」
かたこと日本語は仕事のときによく聞くが別人では初めてだ。白人の巨漢は薄い書物を100冊で山を作るほどに両手で持っている。陸路玖珂纏はその書物が「同人誌」と呼ばれるものだと知っている。本屋<栞梨>は同人コンテンツでも有名になっている。その同人誌の100冊の山から最頂部の薄い本が地面に落ちた。その表紙には人気週刊少年誌の看板作品に登場するバニーガールの女性キャラクターが卑猥な姿で描かれている。それは「成人向け」というやつだった。白人の巨漢は即刻大慌てでそれを拾い上げて山の上に戻す。
「ノープロブレム♪」
「なんかノーじゃないよ~な~」
とりあえず白人の巨漢と陸路玖珂纏が愛想笑いを浮かべる。そこでついでだし、市場調査もかねて陸路玖珂纏は名刺を取り出して身分と名前を示す。そしてこの地域に関する感想を訊ねる。白人の巨漢は会釈して話す。
「ミィはギガース・サンダーマウンテン♪ アメリカ航空宇宙防衛司令部中央情報局――アディキア から派遣されてきた諜報員です」
その組織名を聞いた途端、陸路玖珂纏は驚いた。アメリカのCIA、空軍、NASAを1個の組織として統合させた。それがアメリカ航空宇宙防衛司令部中央情報局である。
そこの国家機密関係を取り扱っている諜報員がいきなり目の前に現れてわざと名乗ったので陸路玖珂纏は警戒する。そもそもそんな大層な国家機関の職員が簡単に暴露するわけがない。
だが、それを立証する者がまもなく現れる。
ギガースは陸路玖珂纏と会話しながら別方向に視線を向けて笑顔になり、その方向に声をかける。
「お!!! ミス瘋癲女子高生!!」
ギガースが呼ぶ先にいたのは、雑踏が行き交う街道の片隅で風呂敷を広げて神経衰弱――ではなく透明なカードを何十枚を散らばせて商売している女子テニス選手がいた。
「HEY♪HEY♪HEY!!! HEY♪HEY♪HEY!!!寄ってカモンカモン♪ 見てカモンカモン♪ カムヒーーア♪ 大胆に♪」
ブロンドのショートヘアに碧眼の放浪癖女子高生がそこで違法無店舗販売つまり路上販売をしている。 異国の女子という外見に釣られてか、メイド喫茶に足げなく通いそうなロンリーウルフの男子たちが集まってくる。
手を叩きながら商売を始める瘋癲女子高生。
「ここにありますはスマートフォン、Ubiquitousの中でも最新型のバージョン81.2!!! トレーディングカードかよ、て勢いの薄さでーす♪ その試作品をたったの100円で提供しまーす♪」
ここにあるガラスのカードの枚数はざっと50枚だった。瘋癲女子高生は胸の谷間から1枚のカードを抜きだす。はさんでいたようだ。これも瘋癲女子高生なりの実演販売である。瘋癲女子高生がそのガラスカードを指ではじくすると、カードにスマホのホーム画面が表示される。
すると、風呂敷に広がっているガラスのカードが一斉に同様のホーム画面が表示される。
「こんなごく薄いのは初めてだ!!!」
瘋癲女子高生が商品説明の中身に入ろうとしたら一番高齢の男性が100円玉を渡して即購入した。
「エクシュキューズミーつまりすいませんなんですが、取り扱い説明書はありません。現品限りでーーすよ?」
「構わない、構わない」
見物客最高齢の男性がそれを受け取るとニヤニヤしながら立ち去っていく。それを遠くから見物している陸路玖珂纏は見逃さなかった。どうやらその男性は瘋癲女子高生が仕掛けた偽者の顧客であった。
すると、次々と見物客たちが100円玉を瘋癲女子高生に手渡していく。
「すとすとストップ緊急事態速報!!! まだ取り扱いに関して説明がまだ……」
「いいよ!! どうせ試作品なんでしょ? 100円だし安いし、操作方法はどうせワンパターンでしょ? いいよ」
次々とガラスのカードが売れていく。それが一種の限られた区域のムーブメントとなり、道行く客は100円という最安値となれば、説明きかずに100円玉を募金感覚で貢いでいき、ガラスのカードを受け取っていく。
それは20分間で50枚も完売できた。つまり5000円の収益が瘋癲女子高生には悪辣なにやけ顔しかない。
「毎度ありがとうございで~~す♪ センキューベリベリマッチング(^_-)-☆」
ウインクしながら風呂敷をたたんで立ち上がり足早に立ち去ろうとすると、その先に通せんぼしていたのが陸路玖珂纏とギガースである。
「へい♪ ミス瘋癲女子高生♪」
「え!!! ギガース係長!!!」
「おい!! 詐欺、瘋癲女子高生!!」
「ノン!!! 纏のお姉さん!!!」
無店舗違法路上販売をしていたことで陸路玖珂纏に叱られ、知り合いの白人巨漢と抱擁しながら久々の再会を喜ぶのだった。
ちなみに瘋癲女子高生が売りさばいたガラスのカードは、瘋癲女子高生の持っているスマホ――Ubiquitousと同期状態にある透明のチップが搭載されていて10分間だけあれば、あのホーム画面が投影される。しかし10分間を過ぎると、透明電子チップの寿命が訪れてただのガラスのカードと化す。
まんまと50人の見物客は瘋癲女子高生の偽善に騙されたのである。
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電機街が男性客が入り浸るのが多いのもあり、量と脂っこさで売りにした飲食店が多い。それを瘋癲女子高生と期間雇用公務員の胃腸の体力で許容できるわけがなく、ようやく真似を始めたメイドカフェに3人が入店して昼食をとる。
仲居が配膳してきた定食とドリンクにフォークとナイフ、スプーンで端から堪能していく。
この内容でこの値段ならばチェーン店のファミレスで済ました方が断然安い。
と、陸路玖珂纏が思っていると、古庭球姫は体育系男子か野生児のどちらかのように女子という控えめさ無関係に暴飲暴食で皿やグラスの中身を完食していく。
「ギガースさんとこの子は知り合いなんですか?」
「YES♪ ラスベガスで国家存亡の危機から救ってくれた超絶英雄ですからね。アメリカ航空宇宙防衛司令部中央情報局としてもかなり恩があります♪」
「いえいえ♪ アメリカ航空宇宙防衛司令部中央情報局のサポートがあってのことでーーす♪」
旧知の仲なのかギガースと古庭球姫の間柄は親しい。対米でアメリカから世界の覇権を勝ち取ることを目的とする国際犯罪ネットワーク――「IPE」。彼らはラスベガスを拠点に全米各地に支部を作り、一斉蜂起をしようとした。それをラスベガスで壊滅させたのが瘋癲女子高生である。
「で? ギガース係長が日本にいるんですか?」
「敬範仲和幹線の裏で奴らが暗躍していると耳にしてね。調査に来た、てわけでーーす。奴らの目的はおおよそ見当はついてまーーす」
「どういう目的なんですか?」
「日本とアメリカの安保条約を解約させてIPEに公務提携国として加入させることですね」
国際犯罪集団なのに日本が加入するとか陸路玖珂纏には理解できない。そもそも彼らはテロリストのはずだ。
「纏のお姉さん。IPEを国際テロリスト集団として取り扱っているのはあくまで日本とアメリカだけでーーす。世界経済の中枢でいたいアメリカにとって脅かしている巨大経済圏です。ヨーロッパ連合も加入しています。東側諸国、西側諸国、そういった単純なすみ分けはありません」
「Intergovernmental Panel on Expansionism」――「領土拡張に関する政府間パネル」――「IPE」。最近、知ったばかりの組織名だ。早速、手持ちのUbiquitous(スマホ相当)で検索してみる。しかし検出されない。
「タマヒメ。それはないわよ。アメリカ合衆国に匹敵するなら確実に出てくるでしょ? 代わりに検出されるのは「 領土問題刑事警察機構(Territorial Dispute Criminal Police Organization)」だ。
「これ? 何? インタポールもどき?」
「インタポールには捜査権があるが逮捕権がない。この欠点に対して国連とアメリカ、日本を除いて組織された逮捕権、強制捜査権、暴徒鎮圧などの様々な特権を持つ国際組織だ」
おもに国境地帯における領土問題において大きな役割を果たしている。アメリカ合衆国政府はこの国際組織を「世界の警察の真似師」、「偽インターポール」と揶揄している。
「偽インタポールには表向きには最高機関の「総会」があるがより強権的な国際捜査及び鎮圧を題目として無期限に発案された試験的会議がある。それが………」
「「Intergovernmental Panel on Expansionism」――「領土拡張に関する政府間パネル」――「IPE」……。総会では国際的議論は交わされるが、この試験的会議に評定してもらってから最終決議を決めている」
それは偽インタポールを実質的にその試験的会議が牛耳っているようなものだった。
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