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偽善賭博
敬範仲和幹線。
それは無数の市町村に跨る巨大な車道。
片側6車線、対向車を合わせて12車線。この公道と繋がる枝道と合わせてメガロポリス級の道である。それは高速道路も枝道として絡んでいる。
都道府県規模の国道。
この幹線道路の終点地域、「仲和」。
海に面している山岳地帯である。ここに1台の交通バスがやってくる。山村だらけであり総人口なんて1村200人しかいない。その1個の山村にあるバス停で交通バスは停車する。
1人の女性が下車する。
「ここが仲和の山村ね。脱サラして私はここで仲和発展のために尽力するんだ~~」
陸路玖珂纏、26歳。敬範仲和幹線最北端にある幹線最大にして政令指定都市「敬範台ノ原」から仕事を辞めて引っ越してきた。
大都会で生まれ育ち、大都会で就職してきたが、大都会の詰まった雰囲気に限界を感じて一念発起して幹線最南端にあるこのド田舎に引っ越してきたのだ。
敬範仲和幹線のロードサイドに暮らす各市町村の人口比で北部の敬範台ノ原周辺地域より、南方の仲和の方が圧倒的に少ない。これを憂う仲和周辺地域の発展を目指す仲和振興局はド田舎に移住する人らを募集していた。勿論、当座の衣食住は半分近く公費を負担してくれる。
それを目当てに陸路玖珂纏は脱サラしてやってきたのだ。バス停を歩いていると、道沿いに何かを発見する。
そこに風呂敷を広げてトランプを裏面にしてバラバラにして客待ちをしているテニスウェアを着た白人の少女がいた。テニスラケットを装備している。
「お♪ そこにお客さ~~ん♪ ミーと神経衰弱賭博をしませんか~~♪」
片言の日本語。明らかに場違いである。陸路玖珂纏は少し距離をとる。田舎で客を騙して大金をせしめようとする現地未成年の悪事かと陸路玖珂纏は警戒する。
謎のテニスウェアの白人の少女は執拗に陸路玖珂纏に神経衰弱の賭博を迫りくる。
「お客さ~~ん♪ もし神経衰弱であなたが負けたら日銭をもらいま~~す♪ミーが負けたらならば、このトランプと風呂敷をあげま~~す」
「お得感ゼロですやん!!」
陸路玖珂纏は1歩後退し、テニスウェアの少女は1歩近づく。すると、遠くから老人たちの集団が接近してくる。格好から農業を営んでいる感じだ。泥や土で汚れている。
「こんら~~~。瘋癲女子高生!!! お前、また悪さっしよるんか!!!」
先頭にいた農夫が張り手でテニスウェアの白人少女の後頭部を叩く。
「アウチ!!! 古庭球姫に何をするですかーー!!!」
大きくて真っ赤なタンコブが盛り上がり古庭球火と名乗る白人女子高生は涙を流して抗議を述べる。
「あんた、敬範台ノ原あたりから来た陸路玖珂纏さんでっしゃろ?」
「――はい!」
陸路玖珂纏をこの山村に招待する自治会の相談役である。「相談役」とは企業を引退した経営者が就く幹部の役職である。200人も満たない限界集落であると、村役場村議会などたくさんの人手で村の政治、ライフラインを維持することができない。それを敬範仲和幹線を管理運用する「公的な政府機関」の出先機関である仲和振興局が肩代わりしている。この山村に1000人以上を超える人口を獲得したらようやく村役場、村議会などを設置できるだろう。しかし200人以下であれば、自治会が運用して村長空位であるが、村長代理として仲和振興局の期間雇用公務員――「自治相談役」が村の行政を担っている。
相談役の農夫に陸路玖珂纏は頭を下げて挨拶する。そして陸路玖珂纏は自治会の人らとともに山村の奥地へと進んでいく。
〓〓素材提供元:プラナス様
大きな河川。そこに跨るつり橋。そこを進んでいくと、かやぶき屋根の家屋がそこかしこに立ち並んでいる。家屋の中には雑草、ツルが生い茂っていて空き家であることは一目瞭然で分かる。
「高度経済成長期にはかなり林業でここら一体は盛んでしたんですがね。今は……すっかり寂れてしまって……」
「幹線道路の南方――仲和地域には2,3個ほど都市がありますよね? そこに合併されたりはしないんですか?」
少子高齢化が急速に進む昨今、幹線道路北部の敬範台ノ原は3個の大都市が合併して経済統合を果たした。そのために政府から政令指定都市認定を受けたのだ。敬範仲和幹線を運用する政府機関は限界集落化する各町村に合併を提案した。幹線道路北部中部の市町村は理解し、統廃合を繰り返す。しかし幹線道路の南方に近づくにつれて総人口激減しても頑固に自治体として独立を保ちたいのだ。
「俺たちはこの村が好きだからその気はないだ。隣村もそうだ」
「だから私が引っ越してきたんですよ♪」
陸路玖珂纏の目的はこの山村の若い改革者になることだ。短大を卒業して幹線道路北部の1企業に就職してから6年間、事業の業績アップに多大な貢献をした。大企業からヘッドハンティングを受けるほどにだ。役職も任せられて一時期は部長も確実とされたが、よりストレスが蓄積していき、結果として脱サラに至る。
村道を歩くと、水田、畑で野良仕事に励む老いた村民たちは陸路玖珂纏の姿を見るや自己紹介と挨拶をしてくる。都会の汚れた空気に染まっていない農村の人らには笑顔が絶えず、明るかった。それこそが陸路玖珂纏が求めてきたものだった。
仲和振興局から衣食住の費用を公費負担してもらう間、負担の条件として山村の手伝いをすることだった。
そこから材木伐採、加工。田植えや畜産業と老人介護など陸路玖珂纏は様々な初体験をしていく。振興局が用意した賃貸住宅に住みながら山村の新鮮な空気を身体全体で感じ取り、楽しんでいく。
それから約半月が経過した。
村で一番大きい建物があった。
そこの大広間。
〓〓素材提供元:はなたれ様
そこで毎週の土曜日に開催される会合があった。それはこの山村の自治会に関することだ。山村の住民が集まっている。平均年齢は70歳と高齢者ばかりである。そこで村長代理の「相談役」が取り仕切り、村内の決め事や問題点の洗い出しなどを行っている。同時に村の移住者である陸路玖珂纏の歓迎会も催されていた。自治会とはいえ、翁や老婆たちは酒で半分酩酊状態である。陸路玖珂纏は酒が苦手なのでジュースだけを飲んでいた。
肥満体の老婆が陸路玖珂纏に話しかけてくる。
「纏ちゃんはこの山村で何がしたいんかえ?」
老婆は山菜で調理した鶏肉のフライをすすめてくる。それを陸路玖珂纏は箸で掴みながら口へと運ぶ。同時に老婆の問いに答える。
「この山村のことを動画配信サイトへ紹介して幹線道路沿いの住民たちや全国各地の人らに興味を持ってもらい、どんどん移住してもらおうと思います。そしたらこの村や隣村など仲和地域の発展になります♪そして若い世代が増えて将来的には村役場、村議会もできてこの村は幹線北部のような一般的な自治体機能を持つようになりますよ♪ 若いちからで♪」
陸路玖珂纏は自分のこの山村における理想社会を語りだす。新鮮な空気。仲和は南方と呼ばれるため、山岳地帯を越えると、すぐ海と対面する。漁港、魚市場などそれなりに発展した都市も数個ある。陸路玖珂纏の理想像を聞いた肥満体の老婆は微笑からいきなり冷笑へと変貌する。そして「相談役」の老人男性に話しかける。
「相談役さぁあああん。纏ちゃん。若いちからでこの村を支配するんだって!!」
「………へ?……」
言葉を失った。
すると、先ほどまでどんちゃん騒ぎしていた大広間の空気が凍りつく。そして笑顔から憤怒の表情へと老齢の住民たちは急変する。相談役の男性は口火を切る。
「纏ちゃん。そういうのじゃないんだよ……。わしらはこの村の長老たちじゃ……。理想像どうこう云々はわしらに決定権がある……。身体で分からせたるわ……。みんな!!」
いきなり老人たちが陸路玖珂纏を取り押さえる。羽交い絞めにして押し倒す。陸路玖珂纏は1歩も動けない。すると、相談役は上着を脱ぎすてる。そしてズボンのベルトをはずす。
「村を盛り上げるには必要なんは若くてたくましい母体やな♪ それで子供をたくさん量産して村の考え方を小さいころから叩き込んで幹線北部のような都会に憧れんようにしたるからな♪ 纏ちゃんは彼氏はおらんから、わしが夫になったるわ♪ ええな嫁はん♪」
「あんたの好きにどうぞ♪ 良かったね♪ 纏ちゃん♪」
着物を着こなす老婆が嘲笑を浮かべながら相談役の提案を称賛する。陸路玖珂纏は理解できなかった。人手不足で憂う幹線道路辺境の市町村を救済すべく、人生の再スタートも兼ねて移住してきたのにいとも容易く理想像は崩れ去る。それならば、仲和地域沿岸部の都市か幹線道路中部の農村に移住しておけば良かった。ここまで人口が衰退し、昭和まで残った恐怖政治的な風習が残った山村に理想郷を求めるべきではなかった。
絶望に陥った時だった。
どこからかテニスボールが飛んできた。それは陸路玖珂纏を羽交い絞めにする老人男性の側頭部に直撃してその男性は卒倒する。老人たちはテニスボールの飛んできた方向へ振り向く。
「へ~~い♪ 村の皆さん♪ ミーと賭け事をしませんか~~」
「お、お前は瘋癲女子高生!!!」
テニスウェアを着たショートカットブロンドの女子高生が佇んでいる。
「この限界集落がかろうじてやっていけてるのは、日本政府のお陰だと知っているんですか~~? その寛大な政府の思惑を無視して昔のきつい風習を貫き通す。それが仲和振興局しいては日本の政府機関が知ったら強制的に沿岸部の都市に併合されますね~~」
テニスラケットを突き付ける。
「な!!! 何が言いたい!!!」
村人たちはこの女子高生に脅されているのかかなり動揺している。
「今、ミーはその女性を村の住民たちで総がかりで暴行しかけるところをスマホで撮影しました。このままその写真を仲和振興局に提出したら即座に政府機関に報告されますね~~。なので偽善賭博で~~す♪ ミーと戦ってミーが勝てば、通報します♪ ミーが負けたらこの写真は隠滅してミーもそこの女性と同じで相談役さんの慰み者になって赤ちゃんをたくさん産みまーーす♪ この賭博に乗りますかーー? 乗らないですかーー♪」
村人たちは判断を相談役にゆだねた。相談役は古庭球火の幼い肉体を見ながら舌なめずりをする。下卑た笑い回答した。
「乗ろうじゃないか♪ しかし君はバカだな♪ 多勢に無勢なんだよ♪ ささ♪ みんな♪ その子も捕縛してあげなさい♪」
「はい♪」
老人たちは襲い掛かる。古庭球姫はラケットとは反対の素手を開く。
「ホワイトボールをベッド……」
いきなり真っ白な卵が現れる。その卵を空中へ放り投げてテニスラケットで打ち込む。大気を貫く卵は豪速球で村人の1人の顔面にぶつかる。そして卵が割れて中から小さいトランプカードが出てくる。それはスペードだった。
続いて古庭球姫はまたもや卵をテニスラケットで打ち込む。その男性の顔面にまたもや直撃して卵が割れる。中からトランプカードが出てくる。それは違う数字とマークだった。
「何だこれ?」
「残念♪ 無限の彼方へ誘ってあげま~~す♪」
老齢の男性が持っている2枚のカードの絵柄と数字がいきなり道化師の絵柄に変わる。その道化師はアニメのように踊り出して男性を嘲笑う。
「シーツオープン♪ ブラックボール♪」
男の側面に突如として真っ黒な穴が出現する。その黒い穴から黒い火花が発生している。その黒い穴は男性を掃除機のように吸い込んだ。男性を吸い込むとその黒い穴は消え去った。
「何だ!!!!」
「幹線道路を取り仕切る内閣府情報調査室運用支援別班。通称、「別班」。この幹線道路には国家転覆級の違法賭博を行っている噂が流れています。それを究明するためにミーがラスベガスでスカウトされましたー♪ その代わり、ミーは幹線沿いの汚職と腐敗を目撃しても賭博を仕掛けて日銭を稼ぐけど良いかと交換条件を提示したら別班は了承してくれました~♪ それでは続いてホワイトボールをベッド♪」
古庭球姫はまたもや卵を発生させてテニスラケットで打ち込む。それに肥満体の老婆は直撃する。卵は割れてトランプカード1枚が出てくる。続いて卵を打ち込まれて新たなトランプカードを手にする。カードの絵柄と数字は揃わなかった。
「残念♪ シーツオープン♪ ブラックボール♪」
またもや黒い大きな穴が発生して肥満体の老婆を吸い込んで消える。
「お、おりる!!! 嫌だ!!!」
老人たちは背を向けて逃げようとする。それに古庭球姫は不敵な笑みを浮かべる。
「残念ですが、多勢に無勢。この偽善賭博を中止するにはミーのサイドに他にギャンブラーがいた場合でーーす♪ シングルスですので反対意見はなし♪ ゆえに偽善賭博は続行でーーす♪」
古庭球姫は卵を老人たちに打ち込んでいく。トランプカードの目は揃わず、老人たちは真っ黒な穴に吸い込まれていく。1時間近くであっただろうか、大広間にいたはずの200人近くの老人は既に相談役とその妻そして新たに移住してきた陸路玖珂纏の合計3名だけになった。
陸路玖珂纏は一部始終を見ていた。村人たちがブラックホールとおぼしき大きな黒い穴に吸い込まれていったからだ。古庭球姫は卵を2個打ち込んで相談役の妻にぶつける。なんと偶然にも卵から割れて出てきたトランプカードの絵柄と数字は揃っていた。
「アンラッキー♪ 良かったですね~~♪ あなたの命は助かりました~~♪」
相談役は騒然としながら土下座をしてきた。
「瘋癲女子高生!!! すまない!!! 偽善賭博はワシらの負けだ!!! 通報してくれ!!! 沿岸部の都市に合併してくれていいから!!!」
「ゲームセット♪ ミーの勝ち~~♪」
古庭球姫は飛び跳ねながら喜んでいた。陸路玖珂纏は茫然とするばかりであった。
数時間後、「別班」と書かれたパトカーが数台止まっている。警告灯が点灯している。自衛隊の迷彩服ような制服を着こんだ男女が10名以上、山村内部を調査している。山村唯一の生き残りである相談役夫妻は別班の職員に連行されていく。
陸路玖珂纏は言葉を失っていた。理想郷をこの山村に求めて移住してきた。しかし若年層という家来が欲しかっただけで村の恐怖政治をそのまま永続化させようという古株たちの本心。自分はあくまで子供を産み続けるための乳牛のような扱いをされそうになった。
古庭球姫は別班の陣頭指揮をとる男性を話していた。集音マイクみたいな髪形をしている。その男性は古庭球姫に連れられて近づいてくる。その男性は手帳を提示してきた。
「初めまして私は内閣府情報調査室運用支援別班の敬範仲和幹線地区局幹線側武装警察部隊を取り仕切っている部隊総長の菅菅義元だ。怖かったでしょう。無事で何よりです」
菅菅義元は最近、ここら辺りで崖から落下して死亡した女性を発見した事故を説明した。その女性はどうやらこの山村で陸路玖珂纏のように騙されて移住してきて暴行の末、監禁され、何とか逃げ出したものの崖から誤って落ちてしまったようだ。連行されている相談役夫妻が正直に白状した。
「あ、あのう……の敬範仲和幹線とは何なんですか? ネットで調べたら日本最長日本最大の幹線道路としかデータが出てこないんですが……」
「日本政府に潜んでいた正体不明の秘密結社が国交省を傀儡化してできた国道です……。我々、別班がこの秘密結社に築いて捜査を開始したときには……既にもぬけの殻でした……。しかしこの敬範仲和幹線は地元住民にとってはなくてはならない交通インフラであり、廃止することも解体工事もできないゆえ、我々、別班はその秘密結社を調べるために内閣府に許可をもらい、この幹線道路に関する一切の行政事項を管理させてもらうことにしました。の敬範仲和幹線は日本における一種の独立国家のようなものです。敬範仲和幹線は道路沿いの住民だけでなく、日本各都道府県にとっても重要な交通の中継地点なんです」
敬範仲和幹線は県警本部の所管とするとこではないらしい。内閣府が直接統治しているに等しい。
「で、あの偽善賭博と唱えて助けてくれたテニスウェアの女子高生は?」
「ミーのことですか?」
「この子は日系アメリカ人。ラスベガス在住でアメリカ転覆を企む違法賭博を解決した実績がある。この子にはの敬範仲和幹線各市町村を周回して日本転覆を企む違法賭博の実態を調べてもらっているんだ」
「そうでーーす♪」
古庭球姫はうろうろしながら偽善賭博というので勝負して日銭を稼いでいるらしい。陸路玖珂纏は溜息をついた。何やらがすべてめちゃくちゃでどのように思考を整理したらいいかわからなかった。
ただ言えることは、敬範仲和幹線中部に引っ越すことに決めた。
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