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お土産には
ご近所のお土産には『ちゃたま屋』のシュークリーム。
何となく私の実家の近所ではそんな風潮になっていた。私の実家は田舎の中の洋品店。みんなお買い物に来るのに、自分の家で作っている野菜とか、ちょっとしたお土産を持って買い物に来る。不思議な店だった。
きっと母とお客さんの関係が良かったのだろう。母は商売に向いていた。気が強く、メイや姉の子供のころには厳しかった母だが、その気の強さがお店の経営には向いていたようだ。
仕入れた商品が売れないと、なにくそ。と思い、お客さんのニーズにこたえるようなちょっとおしゃれに見える普段着、伸びがあって履きやすいズボン。等の定番品を常に同じ価格で揃える。しかし、小さい町なので同じ服が2枚にならない様、仕入れには大変気を配っていた。
メイが大学を卒業した頃に、新幹線を降りて実家に向かう道路の右側に、『ちゃたま屋』というお店ができた。
駐車場は砂利だし、元々何があったのかわからなかった。
畑か何か、そんな感じだったと思う場所に突然お店ができた。
のぼりは立ててあるが、いかにも急づくりのお店なんです。といった感じの板張りのお店だった。
しかし、私が気づいた頃には、砂利ではあるが10台ほど停められる駐車場は常にいっぱいで、お店の横の道路に路駐をする車まで出てくるほど人気があった。
最初に有名になったのは、とても美味しいシュークリーム。
たまごをたっぷりと使った、薫り高くとても滑らかなカスタードがこれでもかっと言うほど入り、シュー生地もその頃にありがちな柔らかいシュー生地ではなく、しっかりと焼き上げたカリッととしたシュー生地だ。
そのシュー生地にたっぷりとカスタードが入っていて、多分、一つ250gほどではなかったかと記憶している。
シュー生地がしっかりしていないとシュークリームとして成り立たない程の重量だったのだ。
まずはふたの部分のシュー生地をちぎって、下のシュー生地にあふれんばかりに入っているカスタードをすくって食べる。
一口かじると、冷たい滑らかなカスタードが固めのシュー生地によく合い、サクッとしたシュー生地と冷たいカスタードが口の中いっぱいに広がり、もう一口。もう一口。と食べるうちにシュー生地の上の部分は無くなってしまう。
それでも、まだたっぷりと下のシュー生地に乗っているカスタードクリームをこぼさないように、端から少しずつ下のシュー生地をかじっていく。
スプーンですくっても良いのだが、シュー生地と一緒に食べるのが一番おいしかったのだ。
一つ食べ終わる頃には結構お腹がいっぱいになる。でも、カスタードは決してしつこくないので、少し時間がたつと、残りのシュークリームが気になるほどだった。
メイが実家に帰った時にこのシュークリームがあると、とても嬉しかったものだ。
夏には、ちゃたま屋にならぶほど田舎の人は暇ではない。農作業の為、朝早くから日が暮れるまで働いているからだ。
なので、冬の農閑期である、年越しに帰ると結構シュークリームとの出会いが多かった。
ところが、少し時期が過ぎると人気の物が変わってきた。
シュークリームは勿論人気なのだが、これは、わざわざ県外から買いに来る人がいるようになり、地元の人たちは食べ飽きてしまったのだ。
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