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二月上旬。平日。午後七時。
OLとラブホテルに入ったら、クラスメイトの女子がハゲのおっさんと腕を組んでいた。
お互い、目が合うと同時に一瞬固まり、次の一瞬では他人のふりをした。
遠野凛だ。目が合ったのは一瞬だったし、学校とコートが違うけど間違いない。肩ほどまで伸びたロングボブ。整った顔立ち、特徴的な切れ長の瞳。なにより女性にして珍らしい長身と、背筋を伸ばした佇まい。身長に関しては一六八センチの俺と変わらない。
あっちの反応を見る限り、俺がクラスメイトだと気づいたようだ。
「安い部屋でいい?」
「あ、もちろん」
一緒に入ったOL、明菜さんがパネルを押し、受付へと向かう。
その間に、遠野とおっさんはエレベーターに乗り、上へと運ばれていった。
「さっきの二人援交っぽくない?」
明菜さんが、ホテル特有のキー棒を持ち、鍵をくるくる回す。明菜さんはいつもこれをやる。子供みたいだ。でも気持ちはわかる。
「女の子の方、たぶんクラスメイトです」
「マジ? すっごい偶然じゃん。創一くんと同じってことは高二か。若いなぁ。てかもしかして創一くんも見られた?」
「見られましたけど、言いふらされたりはしないと思いますよ。あっちもあっちなんで」
「そりゃまあ、そっか」
遠野を運んだエレベーターが戻ってきて、それに乗る。扉が閉まると明菜さんがキスをせがんできた。さっきまで遠野がハゲたおっさんと乗っていた小さな箱。遠野もこうやって、相手にせがまれたりするのだろうか。
ポケットの中のスマホが振動した。キスしながらポケットに手を伸ばす。そのままバレずにけるかなと思ったけれど、明菜さんにはお見通しだったようで、「創一くんさぁ」と小さく溜息を吐かれた。明菜さんはプレイを邪魔されるのを嫌う。胃が少し重くなる。
「す、すいません」
「いいよ。見て」
背を向ける明菜さんに申し訳なく思いながらスマホを開く。
遠野からラインが届いていた。
たった一言。
『終わったら駅前のマックで待ってて』
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