1話

3/5
前へ
/55ページ
次へ
◇◆◇◆◇  遠野凛(とおのりん)はどちらかと言えば、クラスで浮いていた。  それは長身だからかとか、切れ長の瞳のせいでとっつきにくいからとかではなく、遠野自身があまり他人と関わろうしないからだった。話しかければちゃんと返すし、普通に愛想笑いも浮かべる。でもそれだけ。自分から誰かに声をかけたり、話題をふったりすることはない。遊びに誘われても断るし、部活にも所属しないし、学園祭の打ち上げにも来ない。本当に最低限の付き合いしかしない。  ルックスがいいから、女子の中では僻む奴も多いらしいが、少なくとも遠野がそれを気にしている様子はない。  孤高という言葉が似合う奴だ。 「よかった。泊まりじゃなくて」  コートを着たまま向かい席に座る遠野は、に同級生には見えなかった。化粧のせいか、少し高そうなコートのせいかはわからない。 「当たり前だろ。明日も学校あるんだから」 「だって、古賀(こが)ってよく休むじゃん」 「あれはただのサボり。これとは関係ない」  マックシェイクをすする。  遠野と学校で会話したことはないし、もちろん親しくもない。ただ、学校にいる時よりも空気が柔らかい、気がする。いつもの壁みたいなものを感じない。  「あっそ」  遠野はコートを脱いで隣席にかける。下は見慣れた制服だった。  それからバックからスマホ取り出してアプリで注文を始めた。モバイルオーダーだ。アプリを開くたびに毎回勧められるが、俺は未だに使ったことがない。 「で、なんの呼び出し? 言いふらすつもりならないけど」 「その心配はしてないよ。ただ話したかっただけ。一緒にいた人は誰? 彼女にしては年上過ぎだし」  注文を終えると、スマホの画面を下にして机に置いた。明菜さんが『浮気してる男は、通知を見せないために画面を下向きに置く』と言っていたことを思い出す。
/55ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加