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私の視線に気づいた彼が、下げていた瞳をこちらに向けて、2人の視線が交わった。
——きっと、初めて、彼と目が合った。
重い前髪から覗く彼の瞳は、どこか活気がなくって。少しだけ垂れている目は、なんだか眠たそうにも見える。
伸ばしていると言っていた大星とは反対に、前髪は下ろしているものの、後ろは刈り上げているのかスッキリとしている。
「…こんばんは」
そしてきっと、初めて彼の声を聞いた。
「あっ…、こんばんは」
…確かに、確かにイケメンだ。
昼間に杏果が言っていた言葉が、今ならよく分かる。
そりゃあ人それぞれタイプというものがあるんだろうけど、私の中では出会った男の人の中で1番綺麗な顔をしてると思う。
「急にごめんな」
「っえ?あ、大丈夫だよ」
少し眉を下げて申し訳なさそうに謝る樹くんは「まじで俺もいいの?」と今更ながらに確認を取ってくる。
「うん、大丈夫。何もないけど…」
樹くんの後ろにあるキャリーケースは、きっと最低限の荷物なんだろう。
どうぞ、と玄関の端に寄れば「ありがとな、なるべく早く出て行くから」と、そう言って私のアパートに足を踏み入れた。
——今思えば、きっとこれが、全ての始まりだったと思う。
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