第三章:兄と弟 法王の思惑-Ⅲ

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 ヨシュアが気づいたのは、キングの合図から実に3時間後の事であった。辻褄の合わない話を繰り返す(セブン)に椅子をぶん投げる。ヨシュアは(セブン)を殺してやりたかった。しかし、貴重な戦力である彼を今はまだ殺せない。  腹心(ふくしん)二人があまりにも頼りないので、州警察に残ったトロイが珍しく同席していた。 「ジョージ、コイツの頭を元に戻せないのか?」  ジョージの爪先から血の針が伸びて、(セブン)の眉間を貫いた。幻覚の発生源と思われる視床下部(ししようかぶ)を中心に探るが、結果は芳しくなかった。 「偶像の力は掛けていくだけだ。解く力を持ってない」 「クソッ! 偶像、どういう事か説明しろ!」  しかし、偶像は沈黙を貫いた。ジョージの意識は明瞭(めいりよう)そのもので、困った表情を浮かべながら(セブン)を見つめている。元々そういう死神なのだ。偶像の狡猾(こうかつ)さを最もよく知るヨシュアが怒号を上げた。 「偶像! 貴様、いつかこうなる事を予見していただろ!」  偶像の代わりに笑い声を上げたのはジョージだった。「セイカイ!」そう叫びながら、手を叩いて笑い転げている。異様な光景を目にして硬直する州警察よそに、涙ぐんだ(セブン)がまた同じ話を始めた。 「確かに特別顧客がカインを別の場所に移せと(おつしや)ったのです」 「スラム街の売春宿でか? 私がそんな場所に居る訳がないだろう! 居たのはキングだ。お前を(はか)ったんだよ!」 「キングとは……誰です?」 「もういい! それで、本当にあの場所へ移したのか?」 「ええ、エデンの管轄だった場所です。オレンジの木がある、大火事の跡地でした」 「どうだ、ジョージ。君だけで奪還出来そうか?」
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