プロローグ:平和の鐘

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 意外、という顔をしたのは死神の方だった。こんなにもあっさりと取引に応じるとは。しかも、こんな(へき)()のちっぽけな移動遊園地を動かすだけでいいだなんて。 「まいどあり」  そう独りごちた死神は、キングの右目に手をかざすと遊園地を(よみがえ)らせた。 「すごい! 遊園地だ! ああ……僕、一度で良いから遊園地でアイスクリームを食べてみたかったんだ」 「そうなると、次は他の部分との取引になるんですけど。左目か耳辺りが妥当でしょうかね」   「そっか」   「あ、でもこれから飛び降りるんスよね? だったら、その分ツケといても良いっすよ」   「え? そんな事出来るの? 君、優しいね」  照れ隠しに頭蓋骨を掻いた死神は、キングを抱きかかえて地面へと下ろした。  足を踏み入れた時には見る影もなくなっていたアイスショップが、(よみがえ)っている。死神からカラースプレーたっぷりのアイスクリームを受け取ったキング。彼は無邪気な笑顔を浮かべると美味しそうにそれを頬張った。  日が暮れ、星が瞬き始めている無人の移動遊園地。キングは生まれて初めてのメリーゴーランドを(たん)(のう)した。 「楽しかった。ありがとう」  観覧車に乗車したキングは、目の前に座る死神へ感謝をした。この観覧車は頂上で止まる。降りてからすることはもう決まっていた。取引に応じて地面に飛び降りる。その先は何もない、無の世界だ。  悲しいけれども、彼に残された時間は後わずかだった。 「魂を売っていただければ、もっと生きられますけど」   「でも僕、親を殺しちゃったからな」   「欲のない人だなあ。まあ、貴方みたいな人が多いんすけどね。人生どん詰まりになるの」   「ハハッ、ねー。テレビドラマみたい」  この子の他人事っぷりは、教養のなさから来てるんだろうな。そう思った死神はこれ以上取引を持ちかけるのを止めた。二人して黙ったまま、殆ど落ちかけている夕日を眺める。 「ああそうだ、僕の宝物。最後に受け取ってくれるかな」 「はあ……風船ですか。ありがとうございます」  キングから赤い風船を渡された死神は、如実に興味なさげであった。けれども、確かにそれを受け取った。
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