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巨大な漆黒は、そのまま二人の意識を飲み込んでしまったかのように思えた。ズズッ……ズズッ……と歩みを進める度に、ビルが軋んで崩壊の予兆を奏でる。
――一時撤退か。せめて人間のカインだけでも、避難をさせないと。
ジョージとプルトが焦りを見せた時、時空の切れ間が顕れた。眩い光の中にいたのはセツコだ。
「遅くなった! 人間のDNAだよ!」
ヨシュアがルルワの末裔に丸投げしていた、DNA溶液。どの程度あれば、死神を弱体化出来るかなど知らない医師達は、1トンもの溶液を作り出していた。
巨大な漆黒が、アンナが避難しているダイナー裏手を見た。彼女を目指し、再びズズッ……と歩みを始める。地獄の底から手招きするような、声が響いた。
「アンナ……アンナァアアアア」
ついにビルが崩壊を始めた。窓ガラスが木っ端微塵に砕け散り、街の人々も異変に気づいて悲鳴を上げている。
民衆は、州兵によって既に安全な場所に避難していた。フランツの手配がどうにか間に合ったのだ。
最後の一人を避難させた戦闘車両が、足早に走り去って行く。
歩みを止めない、巨大な漆黒に回り込んだカインが、チェーンを素早く巻き込んだ。残ったチェーンを腰に巻き、重心を低く取る。
人間に耐えられる重量ではない。咄嗟に背後についたジョージが、カインのサポートに入った。
「プルト早く! DNAを入れてくれ!」
「だって……こんな化け物相手に、どうやって入れるんだよ!」
あたふたするプルトに、レイラから通信が入った。
(落ち着いて。ジョージの武器を使うの。セツコと一緒ならやれるわ!)
振り返ると、溶液に放水ホースを取り付けたセツコが頷いている。
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