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「これから時間をかけて沢山、話をしたいんじゃないかな。僕達、家族の話を」
アジアンタウンのアパートでは、夜通しクロエが泣いていた。
当然、彼女にもXデーまでの記憶が残っている。ジョージの死に身を引き裂かれるような思いで、一晩中泣いた。
――ジョージが死んじゃった。
「うえぇえええ、ジョージィ、ジョージィ」
アパートのドアが開く音がしても、お構いなしで悲嘆に暮れる。涙と鼻水で、シーツはぐちょぐちょだ。
その時、ちょっぴり居心地の悪そうな声が、ダイニングに響いた。
「……ただいま」
クロエは最初、幻覚を見ているのだと思った。いや、もしかしたらジョージのホロを纏った別の誰かかも。
クロエは人身売買に出されてから、その手の事件に巻き込まれ過ぎている。彼女が、自分の見ているものを信用出来ないのも、無理はなかった。
なんとも言えない沈黙が流れる中、不器用なジョージが動いた。
節くれだった手が泣き過ぎて腫れた瞼を、硝子細工でも触るかのように、優しく撫でる。その仕草、匂い、雰囲気。全てがジョージで、クロエは目を見開いた。
「本当にジョージなの?」
「うん……死神になっちまったけどな」
「……はえ? だって、半分くらいは死神だったじゃん」
「それもそうだ。頭が良いな、クロエは」
頬を掻いて笑うジョージに、クロエの涙は塩辛いものから、熱いものへと変貌を遂げていった。
「ジョージ! ジョージィイイイ! お帰り!」
駆け寄ったクロエは、ジョージの身体によじ登ると、思い切り額を擦りつけた。涙と鼻水まみれの親愛の証し。人はそれを絆と呼ぶ。形は違っても、二人は親子だ。
クロエとジョージはいつまでもいつまでも、泣きながら笑っていた。
-最終話『世界はここに』へつづく-
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