最終章:キングの誕生 正義-Ⅲ

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「これから時間をかけて沢山、話をしたいんじゃないかな。僕達、家族の話を」  アジアンタウンのアパートでは、夜通しクロエが泣いていた。  当然、彼女にもXデーまでの記憶が残っている。ジョージの死に身を引き裂かれるような思いで、一晩中泣いた。  ――ジョージが死んじゃった。 「うえぇえええ、ジョージィ、ジョージィ」  アパートのドアが開く音がしても、お構いなしで()(たん)に暮れる。涙と鼻水で、シーツはぐちょぐちょだ。    その時、ちょっぴり居心地の悪そうな声が、ダイニングに響いた。 「……ただいま」  クロエは最初、幻覚を見ているのだと思った。いや、もしかしたらジョージのホロを(まと)った別の誰かかも。  クロエは人身売買に出されてから、その手の事件に巻き込まれ過ぎている。彼女が、自分の見ているものを信用出来ないのも、無理はなかった。  なんとも言えない沈黙が流れる中、不器用なジョージが動いた。  節くれだった手が泣き過ぎて()れた(まぶた)を、硝子細工でも触るかのように、優しく()でる。その仕草、匂い、雰囲気。全てがジョージで、クロエは目を見開いた。 「本当にジョージなの?」 「うん……死神になっちまったけどな」 「……はえ? だって、半分くらいは死神だったじゃん」 「それもそうだ。頭が良いな、クロエは」  頬を掻いて笑うジョージに、クロエの涙は塩辛いものから、熱いものへと(へん)(ぼう)()げていった。 「ジョージ! ジョージィイイイ! お帰り!」  駆け寄ったクロエは、ジョージの身体によじ登ると、思い切り(ひたい)を擦りつけた。涙と鼻水まみれの親愛の(あか)し。人はそれを絆と呼ぶ。形は違っても、二人は親子だ。  クロエとジョージはいつまでもいつまでも、泣きながら笑っていた。  -最終話『世界はここに』へつづく-
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