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海岸線は光を浴びて、眩しいほどに煌めいていた。
アンナは、自室で鏡を見ていた。口紅を選ぶ顔は真剣そのものだ。ずっと目が見えなかった彼女にとって、ささやかな喜びであり、趣味の一つである。
彼女は43歳になっていた。
あれから、キングは学校に戻った。彼が大学を卒業するのを待って、二人は晴れて夫婦となった。
アンナとキングの間に出来た子供は、無事、この世に生を受けた。
彼らの娘は、名前をナオミと言う。
国の再建に加えて、子育て。特にヨシュアは、記憶がそのまま残っている。この20年は、二人にとって初めての連続であった。中々、夫婦の時間も取れない。
アンナは振り返ると、テーブルに積まれた書物の山に目元を緩めた。
ヨシュアと娘ナオミは、大学生だ。ここ数年、ようやくキングと過ごす時間が増えてきて、アンナは幸せを噛み締めていた。
その時、ドアを叩く音がして身体を捻った。参謀が呼びに来たのだ。
「大統領、そろそろお時間です。会場へ移動を」
「わかった。今、行くわ。少し待っていてね」
アンナは、米帝の大統領になっていた。
この国、初の女性大統領である。
会場に到着したアンナは、既に着席していたレイラに手を振った。会場の隅では、時空の切れ間が陽炎のように揺らめいている。レイラの羽織っている革ジャンは、セツコのものであった。
「半年ぶりね、アンナ。TVで毎日見てるわよ」
「私は外交が本当に苦手だから、恥ずかしいわ。カインは来ていないの?」
レイラとカインは38歳になっていた。息子の名前はホープ。現在は、米帝に留学中だ。
「息子とツーリングに行くんだって、まだバイクを弄ってるわよ」
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