なんにもできないタカシ君

　ご無沙汰しております。
　タカシです。
　え、僕の事をご存知ない？
　まさかまさか、貴方は私の事を知っていますよ。お忘れですか、やだなあ。
　僕ですよ、僕。タカシです。
　え、そんな事を言われても知らないって？
　仕方ないなあもう。
　ほらほら、あのタカシですよ。憶えているでしょう？

　点Pから湖畔を何故か兄とは反対向きに周回する男、タカシです（なお当日の天候は無視できるものとする）。

　まだですか、欲しがりますねぇ。

　ビル火災でいつも親に取り残されて窓から助けを求める男、タカシです（なお嵌め殺し窓やバックドラフトは無視できるものとする）。

　え、もっと？しょーがないなぁ、普段ここまでやりませんよ？

　目の前でMs.Nancyが板書してるのにnightにKを付けないmale、Takashiです（なおMikeとMikaのadviceはignoreしてるものとする）。

　Hallelujah！
　さあ、いい加減思い出して頂けましたか。
　僕の名はタカシ。
　日本で発行される様々な教科書でトボけ倒し、種々の漫画でひどい目に遭い、色々な小説で読者のページを一旦戻す、あのタカシですよ。
　僕はあらゆるジャンルの書物の隙間に存在します。
　教習所で後方確認を怠っていたり、歌舞伎町を仕切るママの旧名だったり、なんか犬だったりします。
　彼女に投資を勧められたり、村で生贄に捧げられたり、吸血鬼に蹂躙されたりしています。
　貴方は日々、僕を見て学び、笑い、時には悲しみ、何より楽しんでいるのです。
　最早この日本社会はタカシに侵食されていると言っても過言でしょうね、はい。笑いどころですよー。
　っっっ空前絶後の相談窓口ぃ！失笑の安打製造機！究極のエンターテイナー！母は主婦ヨシエ！父は部長マナブ！第一話で怒られてる新入社員！びっくりしたり解説したりすらしないやつ！セリフ『オオオ…』だけ！
　突然やってきたドラゴンにい！大コマで掴まれてぐったりしてるやつう！
　33番目のクラスメート！描かなれなかった村人T！

　サンっっっっっっっっ…………タカシです。
　あっはっはっはっ。
　はーぁ……
　遠く紙芝居の時代から描き継がれた、名前があるのにアンネームド、タカシ。
　しつこいようで恐縮ですが、僕は過去、汎ゆるジャンルで技術や言語、果ては魔法や死、転生に至るまで全てを経験しました。
　そんな僕ですが、たったひとつだけ、未経験な事があります。

　僕は、完成した事が、ないんです。