迷い道ミステリー

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迷い道ミステリー

 子供にとって一大イベントの一つが、“初めてのおつかい”というやつだろう。  いつまでも大人が付き添って買い物をするわけにはいかない。よって、基本的に親は少しずつ、子供が一人でもおつかいができるようにと訓練していく必要がある。  問題は。世の中には、とんでもない方向音痴がいる、ということ。  私もそんな一人なので、道に迷うことはしょっちゅうだったりする。それこそ、初めて渋谷駅に降り立った時の衝撃は忘れられそうにない。ハチ公前に立っているとわかっていて、地図も持っている。つまり現在地がわかっているのに、進行方向がわからないという。いやはや、斜めに道が複数存在する時の恐ろしさといったら。あれから十年以上過ぎ、スマホの時代になり、グーグルマップの有難さに心の底から感謝する毎日である。  さて、そんな私の一人息子だが。  私の悪いところが似てしまったらしく、彼もまた天下一品の方向音痴なのだった。息子の手を繋いで二人一緒に道に迷ったことが果たして何度あったやら。私も帰り道がわからないし、息子も道をまったく覚えていないのである。スマホがなければ、交番のお巡りさんのお世話になっていたかもしれないほどだ。  そんな彼であっても、一人でのお使い、はできるようになってもらわねば困るわけで。  彼が小学校一年生の夏、私はお使いを頼むことにしたのだった。某テレビ番組のように、複雑なお使いを頼むつもりはない。最初はあくまで、歩いて十分程度のスーパーに、牛乳を買いに行ってもらうだけのお使いだった。ちょっと重いが、買う品物が一種類だけであり、しかもその前に私が一緒に行って予行演習もしている。七歳の子供が行くのだから、そこまで難易度が高いお使いでもないはずだ。息子は本が好きなので、ちょっと上の子の漢字も読めるというのも大きい。 「いい?私もうっかり忘れがちだけど……行く時はこうやって、振り返りながら、景色を覚えていくのよ?」 「う、うん」 「それと、何かを目印にして行くといいわ。この目印があるところを右に曲がる、とか。この目印がある場所の正面に目的地がある、とか。そういう風に覚えればいいの」 「う、うん……頑張ってみる」  息子は緊張していたようだが、本人にもやる気があるようだし、きっとなんとかあると思ったのだ。ところが。 ――あれ?帰ってこないぞ?  お使い当日。彼は見事にやらかした。  つまりは迷子になったのである。
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