いつからせん階段で

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いつの間にか森本君もいなくなっていて、可南子さんが尚也に生ビールを持ってきてくれた。 「すみません、間に合わなくて」 「こっちはいいのよー。でも夏葉ちゃんのピンチには間に合ったじゃないの。あ、ピンチだったのは尚也くんの方ね。いつも夏葉ちゃんが誰かにとられないかハラハラしてるもんね」 可南子さんにからかわれて尚也が「間違いないです」と苦笑している。 「まだ料理はあるからアンケートもよろしくね」と言って奥に戻ってしまった。 「今日は来られないと思ってた」 「うん、それが予想外に早く終わったから急いで来たんだ。あー、遅れても来てよかった。夏葉、若い男にナンパされてるし」 「別に、そんなたいした状況じゃなかったよ。あっちのテーブルに誘われただけ。森本君だっていたんだし。いざとなれば可南子さんや大貴さんがいるんだから」 「いや、大したことだろ」 「何が」 「夏葉が他のオトコと仲良く話してるとか」 「・・・尚也、アメリカに行ってどっか打った?前はそんなこと言わなかったと思うけど」 「あの、森本君もキケンだな。夏葉を狙ってる」 「尚也、いい加減にして。私の話、聞いてる?そんなはずないから。バカなこと言ってないで一緒に食べよう。これすごく美味しいから」 切り分けたコンフィをフォークにさして尚也の口の前に差し出した。 まだ何か言いたげな尚也と目が合って、私が首を傾けてにっこりとすると尚也も素直に口を開けた。 「お、美味いな。え?あ、あれ?これって・・・」 何かに気が付いたらしい。目をぱちぱちとさせている。 「気が付いた?あの時に食べた味にそっくりだよね。」 「うん、俺も覚えてる。夏葉もか」 忘れるはずがない。二人で初めてデートしたときに食べた鴨のコンフィ。あの味にそっくりなんだから。 食事のあと尚也に「忙しくて一緒に遊びに行ったり出来ないかもしれないけど、でもこのままただの知り合いでいたくない。俺と付き合って欲しい」って言われたのだ。 「尚也が忘れてたらきっとすごくショックだった。私たちの思い出の味を覚えていてくれて嬉しい」 「忘れないよ。この味とあの日の夏葉のことは」 私たちは見つめ合った。 私の目の前、そこには5年前から私の1番大好きな尚也がいる。 再会した尚也は強引なのにとっても心配症で私を思いっきり甘やかすかなり面倒なオトコに変わっていたけれど、やっぱり好き。 これで職場では真面目でお堅いドクターと言われているらしい。嘘でしょ。 「ね、尚也が来たんだから私、今日はもっと飲んでもいい?」 尚也は少し驚いたような表情をしたあと、クスリと笑った。 「いいよ。キチンと最後まで責任を取るから。好きなだけ飲んで」 「うん。お願いします」私はぺこりと頭を下げた。 「可南子さーん、お代わりください」
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