2. 静寂

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「お待たせ〜」 「いや、私が早く来すぎただけなので」 「妹ちゃんは優しいね」 桧山さんがニコッと笑う。 えくぼが出るのが特徴だ。 「じゃあ、行こっか〜」 「はい」 道中で何気ない話をする。 単位を落としそうだとか、 バンドメンバーと旅行に行ってきただとか、 居酒屋のバイトで迷惑客に会ったとか。 たくさん話してくれる。 「妹ちゃんは何かないの?」 「私は…」 「ってか、妹ちゃんってやだよね。こかげちゃんでいい?」 「あっ、はい」 「うん。じゃあ、改めましてよろしく。こかげちゃん。」 「よろしくお願いします」 握手をする。 熱が伝わってくる。 すごい、ドキドキする。 「そろそろ着くよ」 手が離れる。 なぜだか寂しい。 その熱をまた、追い求めてる。 「じゃじゃーん!俺らが主に使ってるライブハウスだよ!」 「そうなんですね」 「今から俺らは最後の調整に入るからそこらへんでたむろしてて〜」 「わかりました」 「じゃ!」 手を挙げた桧山さん。 私も桧山さんに手を振る。 なんだかそれが嬉しくて胸の中がいっぱいになった。 その内、たくさん人が来てライブハウス内が賑やかになる。 私は後ろの方でこじんまりとしていた。 アイスティーを口に含むとなんだかふわふわした気持ち。 私みたいな人間がこんな場所に来ること自体がおかしい。 そんな思いがある。 でも、桧山さんに握られた手の熱が忘れられない。 うん。嘘じゃない。 全てが全て私の中で弾けてく。 パチパチと幸せが溢れる。 本当は怖くて仕方なくて今すぐ逃げたい。 でも…、 その瞬間ステージの方から聞こえてくる。 「今日はみんな来てくれてありがとう!盛り上げていこうぜ〜!」 桧山さんが叫んでる。 すごいハイテンポで手が忙しなく動いていた。 私はバンドのことなんてよくわからないけれど、 これだけはわかる。 ここにいる人全員が桧山さん達の演奏で盛り上がってる。 「すごい…」 思わず感嘆の声が漏れる。 かっこよくて、綺麗で、眩しい…。 いつのまにか見惚れていた。 その立ち姿も、 派手な演奏も、 満面の笑顔も、 私には太陽みたいな輝きに等しく思えた。 ねえ、神様。 もし私があんなふうなれたら幸せになれるでしょうか? 固定されたままの私とどちらが幸せでしょうか? この世界はすごく色があります。 私はこんな色は知らない。 光の白と闇の黒しか私は知らなかったから。 多分、今の感情を色で表すとしたら黄色。 幸せそうで元気そうで明るいから。 でも、白の上だと目立たない。 ねえ、私が目立てる時ってあるのかな。 「ありがとうございました〜‼︎」 演奏が終わってる。 拍手が出る。 ねえ、もっとこの色に浸ってたい。
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