2. 静寂

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「そんな感じだったよ」 「ふぅん」 スマホを見ている姉。 相変わらずだ。 「そう」 「次のバイトって…」 「こかげは月火金で入って」 「うん」 「水曜日は委員会あるんでしょ?」 「なんで知ってるの?」 そんなこと家族に一言も話してない。 どうして…? 「内緒」 いたずらっ子のような顔をする。 その顔もかわいい。 きっとこの人は純白が似合うんだろう。 どんな色にも寄り添える憎めない綺麗な色。 「私は宿題するから」 「はぁーい」 私は何色だろう。 きっとグレーだろうな。 何もかもが曖昧ではっきりしない。 単色でしか仕事ができないとっつきにくい色。 「私も白になりたい…」 誰でも惹きつける魅力があって、 驕らずに優しく聖女のような人格で、 平等と平和を愛せる綺麗な乙女。 姉はそれを体現したかのような、 いや、半分ぐらいか。 綺麗で可愛くて誰にでも好かれる 「人気者」 ドゴォン!!!!! 雷の音だ。 さっきまで荒れていなかったのに…。 それよりも明日提出の宿題に取り掛かった。 シャーペンを握る。 カリカリと書いていく。 ノートの罫線がゲシュタルト崩壊していく。 数字達が私の脳内で舞う。 「う"っ」 気持ち悪くなった。 最近は治ってきたと思ったのに…。 ベッドに横になる。 大丈夫。 大丈夫。 大丈夫。 「ハァ…、ハァ…、」 こう、体内を掻き回されたかのような感覚。 こうなると毎回頭に浮かぶのは、 「た、すけ、、、て…」 私を軽蔑した同級生の顔。 『こかげちゃんってお姉さんと比べると地味だよね』 『頭いいからって調子に乗んな』 『どうせうちらのこと見下してんだよね?』 『ガリ勉』 『ウエメセ』 『自己満』 『女王』 「違う!違うから…!」 違うから…。 違うから…。 私は、そんな人間なんかじゃ…、 「違うから…」 肺が苦しい。 胸が苦しい。 心臓が痛い。 息が、息が…、 『どうせそうやって逃げるんだ』 『ガリ勉なのに語彙力ゴミじゃんww』 『逃げてばっかでダサっ』 『泣いて許されるとでも思ってんの?』 『私達のこと蔑ろにしておいてそれはないわーww』 『やっぱり女王様なんだね』 数々の悪口が頭の中に浮かぶ。 ごめんなさい。 ごめんなさい。 許してください。 悪いと思ってます。 申し訳ございません。 酷いことしました。 ごめんなさい。 「こかげ!」 姉に名前を呼ばれて我にかえる。 「落ち着こう。ね?」 荒々しかった息遣いが徐々に整っていった。 「大丈夫?」 首を縦に振る。 「それならいいんだけど…」 心配そうに見つめる姉。 私は到底白になれないだろう。 だって、過去のことを精算しきれないから。
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