2. 静寂

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「きりーつ」 あれ? もう終礼? 急いでカバンに用具を詰めていく。 「きをつけ」 無機質な日直の声。 手を止めて綺麗に立つ。 「れい。さようなら。」 夢の中みたいにふわふわしてる。 さようならーとこだまする中、私は帰りの準備に勤しんだ。 早くバイトへ行かなければならない。 せっかく請け負ったことは最後までやり抜く。 それくらい私の中の決意は固い。 スクールカバンを肩にかける。 ここからバイト先まで駅一つと徒歩15分。 早くしないと。 ☆.•.**°◦.・.★ 「すみません。遅れました。」 「だいじょぶだいじょぶ〜」 姉が気休めにそんなことを言う。 全速力で走ってきた私は急いでエプロンをつけた。 「そんなに急がなくても大丈夫ですよ」 「でも、時間に遅れることはダメですし…」 「精一杯の早く来たのでしょう。それに、この時間は来るのにキツイと思います。30分程度遅らせましょう。」 「あ、ありがとうございます…」 ニコニコ笑顔の一橋さん。 すぐに注文取りをした姉が来たので、料理にかかった。 「こかげ〜。今そんなに洗う食器ないからこっち手伝ってー!」 「わ、わかった!」 フロアに出ると緊張する。 人がいるところは好きじゃない。 でも、なぜあの日はライブハウスなんかに行けたのだろうか? 「しそおにぎりとアイスコーヒーで」 「わたしはにくきゅうどら焼きと緑茶をお願いします」 「かしこまりました。い、以上でふか?」 盛大に噛んだ。 お客様は笑ってるし。 「はい。そうですよ。」 笑いながらそう言われると恥ずかしさが増す。 キッチンの方に伝票を貼っておいた。 「ありがとうございます。こかげさん。」 今はオムレツを作っている。 その手つきは月日をかけて上達していったものだった。 なぜこんな古民家カフェを開こうと思ったのか。 それになぜこんなお店の名前にしたのか。 一橋さんの周りはいつも悲しさと寂しさが漂っている。 私とは違う寂しさの香り。 なぜだかその香りが姉にもあるような気がした。 「あの、この店定休日とかないんですか?」 「基本的にないですね」 「それって、大変ではないんですか?」 「大変だと思えるほど私は働いていたいのだと思います」 倒れてしまわないかと心配になる。 でも、そんなこと言えるほど私は歳を重ねてない。 だから、見ていることしかできない。 「こかげさん。これをカウンターの方に。」 「わ、わかりました!」 出来上がったオムレツをお盆に乗せて運ぶ。 お客様に届けたら、皿洗いを始めた。 一枚一枚丁寧に洗う。 こんな私は誰かの役に立っていると信じ込めるように。 ただ、モノクロの世界が偽りだと信じたいがために。 この一枚一枚に思いをぶつける。
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