3人が本棚に入れています
本棚に追加
「きりーつ」
あれ?
もう終礼?
急いでカバンに用具を詰めていく。
「きをつけ」
無機質な日直の声。
手を止めて綺麗に立つ。
「れい。さようなら。」
夢の中みたいにふわふわしてる。
さようならーとこだまする中、私は帰りの準備に勤しんだ。
早くバイトへ行かなければならない。
せっかく請け負ったことは最後までやり抜く。
それくらい私の中の決意は固い。
スクールカバンを肩にかける。
ここからバイト先まで駅一つと徒歩15分。
早くしないと。
☆.•.**°◦.・.★
「すみません。遅れました。」
「だいじょぶだいじょぶ〜」
姉が気休めにそんなことを言う。
全速力で走ってきた私は急いでエプロンをつけた。
「そんなに急がなくても大丈夫ですよ」
「でも、時間に遅れることはダメですし…」
「精一杯の早く来たのでしょう。それに、この時間は来るのにキツイと思います。30分程度遅らせましょう。」
「あ、ありがとうございます…」
ニコニコ笑顔の一橋さん。
すぐに注文取りをした姉が来たので、料理にかかった。
「こかげ〜。今そんなに洗う食器ないからこっち手伝ってー!」
「わ、わかった!」
フロアに出ると緊張する。
人がいるところは好きじゃない。
でも、なぜあの日はライブハウスなんかに行けたのだろうか?
「しそおにぎりとアイスコーヒーで」
「わたしはにくきゅうどら焼きと緑茶をお願いします」
「かしこまりました。い、以上でふか?」
盛大に噛んだ。
お客様は笑ってるし。
「はい。そうですよ。」
笑いながらそう言われると恥ずかしさが増す。
キッチンの方に伝票を貼っておいた。
「ありがとうございます。こかげさん。」
今はオムレツを作っている。
その手つきは月日をかけて上達していったものだった。
なぜこんな古民家カフェを開こうと思ったのか。
それになぜこんなお店の名前にしたのか。
一橋さんの周りはいつも悲しさと寂しさが漂っている。
私とは違う寂しさの香り。
なぜだかその香りが姉にもあるような気がした。
「あの、この店定休日とかないんですか?」
「基本的にないですね」
「それって、大変ではないんですか?」
「大変だと思えるほど私は働いていたいのだと思います」
倒れてしまわないかと心配になる。
でも、そんなこと言えるほど私は歳を重ねてない。
だから、見ていることしかできない。
「こかげさん。これをカウンターの方に。」
「わ、わかりました!」
出来上がったオムレツをお盆に乗せて運ぶ。
お客様に届けたら、皿洗いを始めた。
一枚一枚丁寧に洗う。
こんな私は誰かの役に立っていると信じ込めるように。
ただ、モノクロの世界が偽りだと信じたいがために。
この一枚一枚に思いをぶつける。
最初のコメントを投稿しよう!