3. 記憶

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「そんなことがあったのですね…」 「そうなんです」 今日はお店に姉が来ていない。 だから、姉の分まで働いた。 正直大変だった。 どこへ行ったのだろうか? お母さんやお父さん、私も心配している。 大人と言えど、顔を見せてくれないと不安になる。 早く帰ってこないだろうか。 「私も娘がいました」 「へっ?」 一橋さんにカウンターで今日の朝のことを話した。 そのあとにいきなり一橋さんが話し始めた。 「親バカなのかはわかりませんが、とても可愛くてね」 「そ、そうなんですか」 「小さい頃は『パパ』と呼んでついてきたものです」 「なるほど…」 「でも、元妻の不倫で離婚し、親権を取られてしまいました」 「なんでですか」 「『私がこの子を育ててきた』の一言に何も言い返せなかったもので…」 「一橋さん…」 「もっと何かできることがあったと思います」 節目がちな一橋さん。 その目にはかわいい娘さんが映っているのだろう。 「人の話を急にしてしまってすみません」 「あ、いえいえ」 「娘にもう一度会えないかと思うのですがね…」 「そうですね…」 チリン 店のドアベルが鳴る。 「いらっしゃいませ」 「こんにちは〜」 そこにはずぶ濡れの桧山さんが立っていた。 「だ、大丈夫ですか?」 「うーん、ちょっと大丈夫じゃないね〜」 「今タオル持ってきます!」 「ありがとう」 スタッフルームに行って積んであるタオルを取る。 一橋さんが何かこぼしたりした時に使えるよう置いてあるそうだ。 「こ、これどうぞ!」 「ありがとね〜」 桧山さんは顔を拭いて、髪も拭いた。 服はどうしようもない状態だった。 「ど、どうしたら…」 「これでいいよ」 「で、でも…」 「こかげちゃんの優しさが俺の服を乾かしてくれるから」 「そ、そんなのは無理です」 「気持ちの持ち用じゃない?」 「えっ、あ、」 「それよりもコーンスープを頼もっかな」 「わ、わかりました!」 さっきキッチンに入った一橋さんに伝える。 鍋をぐつぐつ煮出した。 私は桧山さんのところに戻った。 「ひなたは?」 「今日はいなくて…」 「あいつ、こかげちゃん困らせちゃダメだろ」 「姉は自由人ですから…」 「そうだよね〜。俺もここのバイトしだすって聞いた時は大丈夫かって思ったわw。」 「えっ?あの、桧山さんは姉とどういう付き合いで…?」 「うーん、大学の同級生だね」 「あ、姉は大学ではどのような感じですか?」 「みんなの中心的存在」 「ですよね」 「だと思ったでしょ?」 「へっ?」 「ひなたは今、みんなから嫌われてんのよ」 「えっ、どうして…」 「ちょーっと話がながーくなっちゃうんだよね〜」 「お願いします。教えてください!」 「それは言えないね」 「お願いします!」 「ひなたから聞いた方がいい」 「なんで…」 「俺が言えるような立場じゃないから」 そう言って「ホットココアあんじゃん!ホットココア一つ頼むわー!」と言った。 私は一橋さんに「ホットココア一つ」と言った。 そして、コーンスープを運んだ。
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