3. 記憶

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「うん。ありがとう。」 「お客様の注文ですし」 「それでも感謝の気持ちは大事っしょ」 「そうですか…」 「ふーっ、あったけー」 「クルトンいりますか?」 「うーん、いいかな」 「かしこまりました」 そして、コーンスープがなくなったら、桧山さんは話し始めた。 「ひなた。今、大事なことがあるらしいよ。」 「へ?」 「人生に関わる一大事だとさ」 「私には何にも…」 「こかげちゃんに知られたくないんじゃない?」 「どうして……」 「事実を知ってしまえば簡単なんだけどね〜」 「教えてください!」 「だ・か・ら、ひなたに聞いた方がいいって」 「なんでですか⁉︎」 「あいつもいろいろとあんの」 「桧山さん…」 「そんな表情しないでよ」 厨房の方からホットココアができたと聞こえる。 私は桧山さんに運んだ。 「あったけ〜」 「さっきと同じ感想ですね」 「寒かったんだからいいだろ?」 「はい」 「うん。やっぱここはいいとこだなぁ。」 「そうですね」 そこからは他愛ない話をした。 いつのまにか時間は過ぎて、桧山さんは帰った。 そして、自分も勤務時間が終わったため帰った。 でも、まだ姉は家にいなかった。 どれだけ心配させたら済むのだろう。 そして、制服の胸ポケットにしまってあったメモを見る。 朝のあの女性の連絡先に電話をかけた。 すぐに女性が出てきた。 「こんばんは」 『こんばん、ゲホッ、』 「だ、大丈夫ですか⁉︎」 『大丈夫だよ』 「あ、あの…」 『どうしたの?』 「なんで今日初対面の私にこんなものを…?」 『あなたはすごく優しい人だから』 「はへっ?」 『私、親友が怖くて逃げているの』 「えっ?」 『今は病院だから大丈夫だよ』 「えっ、親友が怖い…?」 『すごく明るくていい子だと思ったけれど、同時に何かおかしいなと思ったの』 「何かおかしいって…」 『その子は私を執着して離そうとしてくれなかった。縛りつけて誰にも私を譲りたくなかったみたい。』 「えっ、」 脳裏に映画のような束縛男や監禁場面が流れる。冷や汗が流れた。 『だから、逃げた』 「だ、大丈夫なんですかっ⁉︎」 『大丈夫だよ。それよりも私があなたに関わってしまったことが問題なの。』 「な、なんで…」 『今、親友は私を探し回ってる。そのうち、あなたと私が会話したことも耳に入るでしょう。その時は、』 ごくりと唾を飲み込む。 まるでフィクション。自分がそんな世界の住人ではないことは百も承知している。でも、こんなことなど一度もない。鳥肌が止まらない。誰かに助けてほしい。そう叫びたいけど、叫べなかった。 『ごめんなさい。誰か来たみたい。おやすみなさい。』 「いい夢を見てください」 『ありがとう』 そして、通話は切った。 そうだ。このことを須藤くんに相談しようか。 少しだけ怖さが和らいだ気がした。
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