3. 記憶

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あっという間に水曜日になった。 図書室の扉を開けると、そこにはもう須藤くんがいた。 「ごめんね」 「大丈夫ですよ。ちょうど来たとこなんで。」 ニコニコと笑顔を浮かべている須藤くん。本の整理でもしているのだろう。 「私も手伝うよ」 「じゃあ、これを」 渡された分は明らかに少ない。 うん。そういう気遣いってモテるんだろうな。 「終わったらすぐに戻ってくるね」 「わかりました!」 片付けているうちに気づいたが、これほとんど同じ場所の本だ。 そういう気遣いがモテるんだろう。 「終わったよ。須藤くん。」 「こっちもあともう少しなんで」 「手伝うよ」 「すみません……」 何冊かを取り出して戻していく。 その繰り返しをしていたら作業は終わった。 「ありがとうございます!」 「どういたしまして」 「さすが先輩ですね。仕事が早いです!」 「須藤くんもすごいよ」 「いえいえ、そんな」 やっぱり須藤くんと話してるとなんていうか落ち着くし、アニマルセラピーみたいな感じなんだよね。そう思うと須藤くんに犬の耳としっぽが…。 「どうしましたか?」 「カウンター行こっか」 「はいっ!」 ☆.•.**°◦.・.★ 夕日が図書室の中に入り込む。 叙景できないほどの美しさと儚さがそこにあった。 「先輩、今日も終わりですね〜」 「そうだね」 「ふぁあ」 隣であくびをする須藤くん。 眠くなるのも仕方ないなと思った。 「あのさ、須藤くん」 「なんですか?」 「私、須藤くんに言われて困っている人を助けた…んだけどさ、」 「はい」 「須藤くんはどう思う?」 「えっ、そうですね…」 沈黙が訪れる。 二人きりの図書室にはすごく重たいものだった。 「いいことだと思います。って言うと無責任な気がしました。」 「どういうこと?」 「困っている人を助けるのはいいことです。でも、その人の困っているを解決するにはすごく大変だと思います。一言で『いいね』って言うと、なんだかそんな大層なことがちっぽけに感じて、頑張った人に無意味さを与えるような気がして、嫌だなって思いました。」 「須藤くん…」 「もっとたくさんの言葉で褒めれたらいいんですけど…」 そうか。須藤くんは昔から褒められてきた人だ。 私にとってはその一言がすごく嬉しい。 でも、やっぱり人は価値観が違ってくる生き物なのだと理解した。 「須藤くんはすごい子だよ」 「へっ?」 思いやりがあっていい子だよ。 でもね、人の嫌なことと自分の嫌なことが同じだとは限らない。 だから、他人を自分に引き寄せて考える時は 常識の範囲内 で主に考えるのがいいと思う。 それができないことを知って嬉しく思う私は最低だ。
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