4. 享楽

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「ありがとうございます。穂波さん。」 「そんなことないよ〜」 お小遣いが一瞬にして溶けた。 悲しい。 「これどうぞ」 「え?」 「私の奢り」 そこには冷たそうなカフェオレが…。 思わず手に取り飲んだ。 「おいしい」 「よかった〜。こかげちゃんって果物系よりこういうのが好き?」 「そうですね」 「なるほど〜。ちなみに私はいちごが好きだよ〜。」 そう言って紙パックのいちごオレを飲む穂波さん。 なんか、甘さ倍増と書いてあるのでとても甘いのだろう。 「こかげちゃんは黄緑が好きなんだね」 「まあ」 「なんだか意外だなぁ」 「どうしてですか?」 「青系が好きかと思ってた」 「そうですか」 「私ね、体が弱いからこんなふうにお出かけするのも昔は叶わなかった」 いきなり話し始める。 しんみりとした空気が広がる。 肺の奥まで広がってそれはなぜかとても重かった。 「だから、こかげちゃんとこんなふうにお話しできて嬉しいな」 「私でよければいつでもいいですよ」 「そういうところがこかげちゃんのいいところだよね」 「はい?」 「ありがとう。これからも仲良くしてくれるかな?」 「もちろんですよ」 「もしかしたら、迷惑かけるかもだけど、いいかな?」 「大丈夫です」 「ごめんね」 「そんなことな、え?」 「私のせいで傷ついたらごめんね」 「そんなことないです」 「それがあったらごめんね」 申し訳なさそうな、その瞳。 ああ、この人は本当に優しすぎる。 ☆.•.**°◦.・.★ 「全然帰ってこないな…」 姉の姿を見たのはいつだっただろうか。 もう、長く見ていないその姿。 キラキラしていて、眩しくて、真っ黒な部分が覆い隠されているそれが、 「嫌いだ」 好きだという気持ちなんて姉にわくはずがない。 あんな人間に好きだなんて…。 「消えてほしくないよ」 どうしてこんなに慈悲をかけられるのだろう。 そもそもこれは慈悲なんだろうか。 もう思い出したくもない。 眩しさが羨ましくて手を伸ばそうとしたら、拒絶されるなんて知らない。 でも、それでも眩しさが羨ましくて、神格化して崇めてるんだ。 ああ、そうだ。 私は弱くて卑怯な人間だ。 逃げてるだけのダサい自分を認めて生きているんだ。 結局、私は姉という生き上手な人にあやかってる。 「寝よう」 今日のことを忘れる日がくるかもしれない。 だって、人間は楽しいことをすぐに忘れて、悲しいことばかり覚えている生き物だから。 楽しさを一生覚えていたい。 そんなふうに神様に願っても無理なんだろう。 私にはこの世界に神様というものが存在するとは思えないから。 だから、無理だ。
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