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「楽しかったな」
自室でそう呟くと今日のことが再生される。
もっと一緒にいたいという気持ちは押し込めた。
また、バイト先で会えるとわかってるから。
「これ、本当に良かったのかな…」
自分の手元にあるものを見る。
今日の記念に桧山さんからもらったイルカのお人形。
「はあ」
イルカのつぶらな瞳を見つめているとまた再生される。
「今日はよく寝られそう」
自分でも気づかないうちにふわりふわりと微笑んでいる。
そうしてベッドにイルカさんと飛び込むとなんだか幸せな気持ち。
甘くてふわふわしてる。
わたあめのような、マシュマロのような、そんなふわふわでもふもふで甘い幸せの味。
「桧山さんに感謝の気持ちを送っておこう」
スマホを取り出して『今日はありがとうございました』とうつ。
すぐに返事が来て、『こちらこそ!』ときていた。
なんだか同じ感情を持っていると思って口角がさらに上がった。
「イルカさん。今日からよろしくね。」
部屋の電気を消して、ベッドにもう一度入る。
いつもなら眠たくならずに目が冴えているのに、今日は健やかに寝れた。
イルカさんのおかげなのか、今日のことなのか、それとも両方なのかはわからないけれど、私の不眠と悪夢の毎日はここで終わった。
でも、夢を見なかったわけではなかった。
真っ白い部屋の中で黒い服を着た穂波さんが立っている。
話しかけようと歩き出した瞬間、暗黒微笑でこちらを見つめる穂波さんがいた。
また、違う場所で暗闇の中、片手に燭台と蝋燭一本を持って歩いている。
そこには、暗闇からも恐れられている姉がいた。
白い服を着て、剣を一本持っている。
その場に立ち止まると、心配したかのように駆け寄ってきた姉がいた。
次は、いつもの街がモノクロのような世界で、バイトをしている。
自分さえもモノクロで気持ち悪い。
そこに、黄色のオーラを纏った桧山さんが現れた。
いつものにこやかな笑みと共にこの世界に色をつける。
しかし、桧山さんの中心部はとても濁った色をしていた。
最後に、私が何もない場所に立っている。
無色、または全ての色が流れるこの空間で私は一つの色を見つめていた。
しかし、その色は憧れ、恐れ、崇め、慄いた、頂点にして孤独だった。
手を伸ばせば自分さえもそうなってしまう。
ならば、最初からこれでいい。
自分のもらったこの色で人生が送れればいいと思った。
「この灰色が私に一番似合うから」
ああ、そうか。
羨ましく思う気持ちはあったけど、結局灰色がいいんだ。
私はこのどっちつかずがいいんだ。
善悪も有無も、この中途半端で真ん中がいいんだ。
私はこの色を愛そう。
誰かが非難しても守ろう。
ぞっと優しく触れれば自分もその色になった。
これからはイルカさんと一緒にいてくれる。
享楽も辛苦も全部、共にして歩いて行こう。
この夢のおかげさまでいつもよりも一時間遅く起きた。
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