1. 転機

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「ねえ、こかげー」 「何?」 「こかげの高校ってバイトOKだっけ?」 「そうだけど。それがどうかしたの。」 目の前にいるのは姉の明光ひなた。 現役大学生だ。 とても明るい性格で友達も多い。 私と正反対のその中身が羨ましい。 「うちのバイト先、人手足りないんだよね」 「そうなの」 「こかげ。お願いだから手伝って!」 「私、勉強で忙しいの」 「バイト代も出るしさー」 「なんでそんなに必死に頼むのよ」 「えー、すっごい大好きだから」 「何がよ」 「全部が」 「意味わかんない」 姉はいつもこんな人だ。 好きと嫌いの区別がしっかりしている。 好きなら100%。 嫌いなら0%。 そういう人。 はっきりしていてわかりやすいのだけれど…。 「ね、お願い」 「嫌だ」 こういうことに関わると自分の身を滅ぼすのよ。 そうやって見向きをしない私。 これこそが弱者の証明だとも知らない。 「一生のお願いだよ!」 「本当に?」 「あと二、三回は使いたい!」 つまりは一生に三、四回のお願いというわけだ。 それなら許せる気もする。 まあ、姉が私にお願いなんてことを言うのが初めてだ。 「わかった。やるよ。」 「ありがとう!」 ガバッと抱きついてくる姉。 うぅ、暑い…。 それに首締まりそう。 「じゃあ、明日の放課後からよろしくね〜」 「は?」 「地図送っといたよ」 「えっ、明日…?」 「そう!やるなら早めにやってこうよ。」 「えぇ…」 特にやることもない帰宅部の私。 しかもぼっち。 これは言い訳ができない。 「…わかった」 その返事ににこにこ笑顔な姉。 その顔はさすがミスコンに選ばれるほど。 私とも血が繋がっているはずなのだが…。 こうして姉の急なお願いを承諾してしまった。 仕方ない。 こうやって、なんでも恵まれた姉に尽くすのが嬉しいとはその時思っていなかった。 そうして放課後に地図で送られた場所に到達する。 なんていうか古民家カフェって感じだ。 「いらっしゃーい!」 満面の笑みの姉。 「すみません。急にバイトが辞めるもので。」 初老ぐらいの男性が出てくる。 「あのー、ここはどういう…?」 「あれ、言ってなかったっけ?」 「言ってないよ」 「ここは喫茶ミアです」 「そうなんですね」 やはりカフェだったか。 「すみません。明光こかげさんでよろしいでしょうか?」 「はい」 「本人確認を忘れてましたね」 優しい微笑み。 これが女性なら聖母の微笑みと称せるだろう。 「私はここのマスターをやっております。一橋(いちばし)誠治(せいじ)と申します。」 「明光こかげです。よろしくお願いします。」 「私は明光ひなただよー!」 「それはわかってるよ」 「そうですね」 「いいじゃんか。私も自己紹介したいよ。」 「どういう欲求なのよ…」 それを温かく見守る一橋さん。 ここが私の転機となった。
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