1. 転機

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「とりあえず、こかげは皿洗いよろしく!」 「はいはい」 姉は注文取りと配膳、一橋さんは料理という役割らしい。 お会計は手が空いている人がやる。 まあ、だいたい姉がやるのだろう。 「よろしくお願いしますね」 「わかりました」 私が中に入った時にはすでに数人の人がいた。 そこそこお客さんは集まるようだ。 「この皿よろしくー!」 「ん」 スポンジに洗剤を含ませ皿全体を洗っていく。 水で流してディッシュスタンドに立てていく。 黙々と作業していく。 私はこういう作業が得意のようだ。 一通り終わったら、レジを見に行く。 誰もいない。 まあ、もう午後五時だし。 みんなこんなとこ寄らないよね。 そんな時、カウンター席で姉とお客さんの話し声が聞こえてきた。 「えー、私その日も予定入ってるわ」 「マジか。じゃ、いつ来てくれんだよ。」 「いつかは行く〜」 「いつかっていつだよw」 仲良さげだ。 私は裏の方へ戻ろうしたら、姉に「こかげもこっちおいで」と言われた。 「こ、こんにちは…」 どんどん掠れて小さくなっていく私の声。 我ながらコミュ力の低さはすごいものだ。 「これがひなたの妹?」 「そう。こかげだよ。」 人をこれ呼ばわりとはなんと失礼極まりない。 「ああ、俺は桧山(ひやま)祐一(ゆういち)」 「ここの常連でバンド組んでるらしいわ」 「そうなんですね」 「そこまですごくないし。てか、妹ちゃんはお金持ってる?」 「高校生にカツアゲとかやばいんだけどw」 勝手に盛り上がって笑う二人。 私は取り残されたような気分になる。 そして、笑い声が止むと、桧山さんは言った。 「妹ちゃん、俺のバンド来る気ない?」 「こかげ、行かない方がいいよ」 「いやいや、来た方がいいからさ」 「えーと、どういう…?」 「俺らのチケットノルマでさ。ひなたのやつは予定が合わないらしいんだよ。だから、妹ちゃん来ないかなって。」 「私、ですか…?」 「こかげ一人で行ける?」 「それは…」 「高校生が迷子はないに決まってんだろw」 「いや、そっちじゃなくて」 「じゃあ、なんだよ」 「こかげは昔から人と関わるのが苦手だし、自分と属性が違うところには近づけないのよ」 そう言われて私は俯いた。 そうやって、弱いことから逃げているのを指摘されると落ち込む。 「そゆことね」 そう、桧山さんは言った。 「なら、俺が連れてってあげるよ」 「え…」 「妹ちゃんは俺が連れてく。それでオッケー?」 「いや、今日初対面のやつに連れていかれるって」 「お願いします…」 いつのまにか私はそう答えていた。 姉は目を丸くしていて、桧山さんは微笑んでいた。
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