1. 転機

4/6
前へ
/40ページ
次へ
「じゃあ、チケット代くれる?」 「いや、この流れでそれはKYすぎない?」 「何円ですか?」 「いや、こかげはホントマジメだね‼︎」 「1500円」 「高いですね」 財布を開けるとちょうど1500円が…。 「これでいいですか」 「うん。いいよ〜。はい、チケット。」 「こかげ、マジで大丈夫?」 「大丈夫だよ」 「心配しすぎじゃない?」 「こかげはそれほどやばいんだって」 「いや〜、大丈夫でしょ」 「大丈夫だよ」 そう言うと姉は私の方を見た。 「本当に?」 それはいつものおちゃらけた雰囲気のものではなく、真剣で真っ直ぐな目だった。 「うん。本当だよ。」 私もまっすぐな目をする。 私が、私自身が、心の底から行きたいって叫んでるんだ。 こんなに動かされたことなんてない。 「わかった。気をつけてね。」 その時、私は姉という保護膜から放り出された。 もし、ここから出なければずっと私だけ固定されたままだったのだろう。 でも、出てしまった。 自分の興味の赴くままに羽ばたいていいと言われた気がした。 まるで、蝶のような羽がついた気分だ。 「じゃあ、妹ちゃんは明後日五時にココね」 「わかりました」 「うん。とってもいい子だ。」 「でしょ〜」 「ひなたとは違ってね」 「なんですって‼︎」 そして、ガミガミ言い合う二人。 私はその隙に裏方に行った。 「お疲れ様です。こかげさん。」 「お疲れ様です。一橋さん。」 私はお給金の封筒をもらう。 貯金しよう。 エプロンを外して、ハンガーにかける。 うん。なんだか楽しかった。 スクールバッグを肩にかけて、店を出る。 姉は置いていった。 いつもよりも星が輝いているように見えて、 いつもよりも足が軽いように思えて、 いつもよりも心が躍っていた。 「明後日、楽しみだなぁ」 その言葉がじわじわと心に広がる。 いつのまにか家に着いていて、ローファーを脱ぐと何かが欠けたような気分になる。 それでも、今日という記憶が頭の中に残っていて幸せな感じだ。 早く明後日になってほしいという欲望。 それが宿題の手を止めさせる。 綺麗な格好で行った方がいいのか。 メイクだってした方がいいのか。 ヘアアレンジもアクセもどうすればいいのだろう。 「二人とも。ごはんできたわよ。」 「はーい」 お母さんにそう呼ばれたら下に行くしかない。 いい匂いが鼻にくるけれど、私は明後日のことで頭がいっぱいになっていた。 考えていくと、私って女子力低いなと思う。 女の子がするようなことに興味がわかなくてずっと避けてた。 本当にわからない。 誰に頼るかと言ったら姉しかいない。 聞いてみるしかないか…。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加