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「ねぇ」
「何?」
アイスを食べながら雑誌を読む姉の隣に座る。
「明後日、どうしたらいい?」
「いや、えー、普通でいいんじゃない?」
「普通って何?」
「いや、だからいつものこかげでいいんじゃないの?」
「それだと失礼じゃないかな…」
「いや、そんなことあんの?」
「でも…」
「演奏してるヤツらが見んのは観客の “顔” だよ」
「顔?」
「自分達の演奏に満足してくれてるか、喜んでくれてるか。身だしなみとかそういうもんは常識の範囲内だったら気にしないし、気にしてない。」
「そう?」
「うん。こかげが楽しんでるなら、きっと、見てくれるよ。」
「あ、ありがとう…」
「どういたしまして」
私はソファから立って自室に戻る。
手がつかなかった宿題を終わらせなきゃ。
そうでないと楽しめない。
後ろからは「ヤッター!当たりだ!」という歓喜の声が聞こえる。
うん。姉の声だ。
「ありがとう。お姉ちゃん。」
それをボソリと呟いた。
〜〜〜
次の日、学校に行く。
早く終わらないかな。
こんなところ別に興味ないし、できれば行きたくない。
めんどくさい。
自分のクラスに着くと、自分の席が使われている。
まあいいのだけど。
私が自分の席に近づいて『そこ私の席なんですけど』みたいな風にしていたら、自ずと周りが退いていく。
私、嫌われてるのかな…。
今日の授業の用意をして、暇だから本を読む。
読書は嫌いでも好きでもない。
一応、図書委員だし、嗜み程度に読んでいるだけ。
それに、こんな妄想なんて現実では起こらないから。
世界で本当に優しい人なんて一握りしかいない。
そんな人に会えるなんてラッキーな人しか無理だよ。
「はぁ」
ため息が漏れる。
私は周りみたいなティーン雑誌なんて読んでいない。
いちいち新作コスメだとかそういうものもチェックしてない。
見てるのは固定されたモノクロの世界だけ。
だから、こんなに明日が楽しみなのかな。
じわりと広がるその言葉。
楽しみだなぁ。
じわりじわりと侵食していく。
それは脳内を溶かしていくように。
私の中を侵食していく。
「全員席につけー」
私は慌てて本をしまう。
いつのまに…。
そして、連絡事項を言ったら出ていった。
私、気づけなかった。
こんなの初めて。
私がこんなに慌てるなんて…。
そして、胸に手を当てる。
じわりと広がった明日のこと。
それを見ればわかる。
私、すごく期待してるんだ。
明日のこと。
この期待が裏切られませんように。
そう願いながら、
そう祈りながら、
今日が過ぎていく。
今日という無に近い時間が。
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