1. 転機

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まだ明日にならない…。 どうしてだろう。 いつのまにか図書室のカウンターに座っている。 それが無に等しく感じる。 誰も本を借りていく人なんていない。 本を読む。 でも、全ての文字が薄っぺらく見える。 全部無に感じる。 全部モノクロに感じる。 全部私だけを置いていっている感覚がする。 「先輩」 その時、隣から声が聞こえた。 「貸出手続きお願いします」 後輩の一年が呼んでいる。 慌てて手続きをする。 「ありがとう」 「いえ、自分ができれば良かったんですけど…」 「ええと、君名前は…?」 「えぇーっ!前、自己紹介したじゃないですか!」 「覚えてなくて…」 つくづく思う。 確かにこれは私が悪かったな、と。 「須藤(すどう)拓斗(たくと)です」 「須藤くん。ありがとう。」 「そんな何回も言わなくても…」 「でも、君は私に話しかけてくれたから」 そんな人間ごく稀にいるだけでみんな消えていく。 いつのまにか私の知らぬ間に一人になっていた。 「だって、困ってたら周りの人に頼るのは大切なことですから」 「…」 その言葉がチクリと胸にささる。 私はいつも周りに頼らず大人ぶってる。 だから、本当に困った時自分で解決しようとして、テンパるんだ。 それでずっと下を向いて、わからなくなって、惨めに思って、 泣きたくなってしまうんだ。 「須藤くんは偉い子だね」 「えっ、そうですか?」 「私は周りに頼るなんて苦手だから…」 「それなら頼れる人に頼ればいいじゃないですか」 「それができなくて…」 「なら、困ったら僕の方を見てください。気づいたら助けに行きます。」 「須藤くんは優しい人だね」 「そうですか?」 「私みたいな初対面な人間にそんなこと言えるなんて」 「もう何回か委員会や仕事ありましたよね⁉︎」 「そうだっけ?」 「そうですよー!」 「あはは」 なぜだか須藤くんと話してる時だけ明日のことを忘れられていた。 そして、仕事が終わってしまえば思い出す。 ああ、明日が来ないかなって。 早く来てほしいな。 昨日買ったチケット。 それと同時に思い出す。 『なら、俺が連れてってあげるよ』 あの言葉を信じて縋って期待して。 「はぁ」 ため息が出る。 幸せをなくして、明日が幸せだと思えるように。 ポロポロとこぼれ落ちた極小の幸せは風に吹かれて飛んでいった。 でも、チケットは飛んで行かない。 私が握りしめているから。 飛ばないように逃がさないように握っているから。 この転機(チャンス)を逃さないように。 「どんなバンドなんだろう…」 物静かな廊下に広がる。 その言葉がまたジワリと胸に広がっていく。
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