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彼は笑いながら澄んだ声で尋ねる。
「人事部からの異動一覧のメール、見てないの?」
「うちの部署関係ないからチェックしてなかったんだ」
ペロリと舌を出す私に彼は言った。
「鶴井文也だよ。ユウちゃん」
ぎょえーっと私は思わずのけ反った。
鶴井文也は私の中学校のときのクラスメートで、ツルスケと呼ばれていた。当時の私はその明け透けな物言いでクラスのドン的存在で、逆にツルスケはスクールカースト最下層の男子でいつも縮み上がっていた。校舎裏に住み着いている野良猫よりも皆から邪険にされていたのを今でもはっきり覚えている。
ツルスケは日本の大学から海外の大学院に進学し、去年卒業するとこの会社に入社。福岡の支店で外国人の顧客を担当していたそうだ。中学の頃はまるで冴えなかった外見も、海外仕込みのファッションセンスでまるで別人のように洗練されている。
「ユウちゃん、これからよろしくね」
オタマジャクシがカエルに変わるくらいの進化を遂げていたツルスケに私は唖然として、うまく返事もできない。
「よ、よろ〜……」
動揺を何とか隠そうと、おどけたふりをして返事を返す。
すると、ツルスケは意外なことを言った。
「ユウちゃん、今度お茶でもどう? 本社のこと色々聞きたいから」
私はバネが弾けるように慌てて返事を返した。
「良いぜよっ! お茶でもご飯でも徹マンでも!」
「そのノリ、相変わらずだな〜」
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