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「実はユウちゃんに相談に乗って欲しいことがあるんだよ」
「何々? 何でも話して! 私、口固いからさ」
「……そ、そう。僕の親戚で電車が好きな子がいるんだけど、老師線の記念品のシャープペンシルがどうしても欲しいって言われていてね。ユウちゃん、覚えてる?」
あ~そう言えば、そういうの確かあったなぁ、と私はカフェのアールヌーヴォー調の照明器具を見上げた。
老師線は私とツルスケの実家がある地域を走るローカル線だ。小学生の頃、100周年記念のイベントがあって、参加者に車両と同じデザインのシャープペンシルが配られた。あの日、いわゆる鉄オタと呼ばれる人達が町に集結して長蛇の列を作った光景をぼんやりと覚えている。
「ユウちゃん、ひょっとしてあのシャープペンシル持ってないかな?」
「え!? 持ってないよ! 私、昔から電車に興味ないもん」
驚く私にツルスケはがっくりと肩を落とした。その姿があまりにも残念そうなので、尋ねてみる。
「何か事情があるの? 例えば、その子が病気で入院しているとか?」
「うん。そうなんだ。ちょっとわけありでね……」
暗い表情で言葉を濁したツルスケから、私はただならぬ悲しみを感じた。
「……でも持ってないなら仕方ないね。じゃあ、今日はこれで」
ツルスケが伝票を手に取って席を立とうとするのを見て、私は慌てた。初デートの終わりがこれでは良くない。私はもう決めているのだから。ツルスケの子供を三人産んで、一人は医者に、もう一人は弁護士に、最後の一人は売れないお笑い芸人にすると。そうして、ヒマな芸人の子に老後の面倒をあれこれ見てもらって面白おかしく暮らす計画なのだ。
「わかった、ツルスケ。私に任せて」
「え? でも、ユウちゃんは持ってないんでしょう?」
いぶかしげな表情をするツルスケに私は白い歯を見せた。
「大丈夫。私、こう見えて顔が広いから。探してみるね」
すると、ツルスケの曇っていた表情がみるみるうちに晴れやかになる。
「ありがとう! ユウちゃん」
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