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私はツルスケと別れると、すぐに小学生の頃の友人に片っ端から連絡を取った。十数年振りに私から電話を受けて、皆驚いているようだった。
「ユウちゃん、久しぶり! 今何やってんの?」
「会社員だよ」
「そっか。CIA長官になって裏から世界を牛耳るって言ってたけどやっぱり無理だったか」
「無理じゃない。これからなるから期待してて」
「ええっ!?」
「ところでさ。ちょっと聞きたいんだけど……」
老師線のシャープペンシルの話をすると、連絡を取った全員の答えがノーだった。
それもそのはず。連絡を取るうちに私も思い出したのだが、あの日、都内だけでなく、近隣の県からも鉄道オタクの人達が私達の小さな町に押し寄せて来た。結果、地元の人はほとんどシャープペンシルを手にすることができなかったのだ。
ネットオークションに出品されていないかもチェックしたが、それらしいシャープペンシルはなかった。たぶん製造数が少なすぎて流通していないのだろう。
仕方がない……。
私は最後の手段を取ることにした。
「もしもしお母さん? 結菜だけど」
「どうしたの? お小遣いならもうあげないわよ」
こういうこと言われるから電話したくなかったんだよ、と思いながら私は仏頂面になる。
「ちーがーう! あのさ。老師線のシャープペンシル知らない?」
「老師線のシャープペンシル?」
私が説明すると、お母さんもあのイベントのことを思い出したようだ。
「ああ! あの100周年のときのね。あの日はすごかったわね。町を何週も行列が取り囲んで……。あのシャープペンシルを探してるっていうこと? ちょっと待って。……お父さん!」
一度電話の声が遠くなって何やらお父さんと話していたお母さんがしばらくして戻って来た。
「もしもし。お父さんが見たことあるって」
「え! どこで?」
「結菜の部屋でだって」
ウソ! 私、気づかない内に誰かからもらってたんだ! 超ラッキー!
「じゃあ、速達で送ってくれる?」
するとお母さんは渋い声を出した。
「良い年して何言ってんの。自分で取りに来なさい」
「え~!」
「『え~!』じゃないの。そういう我がままなところ直さないから、先月だったっけ? 前の彼氏の直人君にもすぐ振られたんでしょ」
「直人は前の彼氏じゃない」
「じゃあ、何なのよ? ただの友達を実家に連れて来たの?」
「ちーがーう! 直人は前の前の彼氏だから!」
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