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翌日日曜日の朝、私は一時間かけて実家に帰った。そう。かなり近いのだ。それなのに帰るのをためらった一番の理由は……。
私は自分の部屋のドアを開けて、一瞬目眩がした。物がごちゃごちゃとあふれかえっている。『物』と言えば聞こえはいいが、ひょっとしたら『ゴミ』かもしれない。絶対に認めるつもりはないけれど。
しかし、ここで挫けるわけにはいかない。
ツルスケの病気の親戚の子のために。そして、もちろんツルスケのために。何よりも、私達の子供、『秀雄』『彩』『ポン太』を産むために。
私は腕まくりをすると、一本のシャープペンシルを探すためにカオスの大海へと飛び込んだ。
夕飯時になっても探し続けている私を見かねた両親が手伝ってくれたおかげもあって、その夜無事、シャープペンシルを発見すると私はアパートに帰宅することができた。
月曜の夜、退社後に私はツルスケとレストランで待ち合わせをすると、老師線のシャープペンシルを誇らしげに差し出した。
「はい。約束通り、ちゃんと探したよ。わざわざ実家に帰って見つけたんだからね」
そのときのツルスケの今にも泣きだしそうなくらい嬉しそうな顔を私は一生忘れられないだろう。
ツルスケはシャープペンシルを握り締めてひたすら、
「良かった……良かった……本当に良かった……」
と繰り返していた。私は思わず苦笑する。
「ちょっとツルスケ、ありがとうぐらい言ってよ」
するとツルスケは朗らかな笑みを浮かべて答える。
「ありがとう、ユウちゃん。でも、これ元々僕のだから」
「えっ!?」
目が点になった私にツルスケがため息交じりに説明する。
「忘れちゃったかもしれないけど、僕、鉄道オタクなんだよ。それで何時間も並んでこのシャープペンシルをもらったんだ。でも、次の日ユウちゃんに『私にも貸しなさいよ!』って取り上げられてしまって……。ずっと心残りだったんだ。今さら『返して』って言ってユウちゃんを困らせたくなかったから、持ってなかった場合はあきらめるつもりだったんだよ」
凍りつく私にツルスケは続ける。
「学芸会の実行委員を押し付けられたときも、一緒に委員になったユウちゃんが全く仕事しなかったから、大変だったよ。ユウちゃんに悪気はなかったってわかってたけどさ……」
わがままな子供の過去を振り返る物分かりの良い親のような目をするツルスケを見て私は慌てた。そんな顔、見たくない。
「で、でも、放課後、遊びにも誘ってあげたよね?」
「そうだね。僕が風邪で熱を出して家で寝ている時にユウちゃんが来て、雪合戦に無理やり参加させたりしたよね。懐かしいな」
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