ちゃらんぽらんの色

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 新年度が始まって私が所属する本社にも、支店から異動になった社員が数名新たに配属された。  とは言っても、私の部署の面子は今までと変わらない。新入社員として私が配属された三年前を最後に出入りが一切ないのだ。  つまらないなぁ、大学の麻雀サークルが懐かしいよ、とため息をつく。  麻雀は今でも大事な趣味だ。私が麻雀に惹かれる理由はその濃淡入り乱れたグレーな世界のせいだと思う。若い女性客が少ないせいもあって、知り合いの雀荘で1000点一円のレートで特別に打たせてもらっている。1000点一円のレートなんて、勝っても負けても小学生のお小遣い程度だ。それでも、お金がかかっているから皆真剣だし性格が出るところが面白い。  相手の裏をかき、出し抜き、取り繕い、知略の限りを尽くして運をつかみに行く。ズルさとか、脅したり怯んだりするところとか、ミスって焦るところとか、浮かれて調子に乗ったりとか、落ち込んで悔やんだりとか。そういう人間臭さ全部が私にとっての麻雀の魅力だ。  グリーンの雀卓の上に広がる世界は、善悪が入り混じったありのままの人間のグレーな心だと思う。  正直、私の嗜好はちょっと時代に取り残されているかもしれないと思うことがある。だって今は何でも白黒決めたがる時代だ。SNSでもYouTubeでもテレビでも、正論だけがまかり通って、少しでも影がある意見は徹底的に叩かれて排除される。  正しいことは大事だと私も思う。でも、そうそう正しい言動ばかりしていられないのが人間なんじゃないだろうか?  正しさから外れた人間本来の「欲」みたいなものはそんなにも罪深いものなのか?  もし正しくないというデジタルタトゥーを入れられたら、人はその先どうやってこのピュアホワイトばかりが求められる世界を生きて行ったらいいのだろう? 「自己責任だから、私達の社会から出て行って下さい」という言葉はブーメランになって、どんどん「人間」である私達を息苦しくするのではないだろうか?  それでも清く正しくあるべきだと言うのなら、もう少しテクノロジーが進んだところで、政治も経済も全部AIに任せた方が恣意的じゃない分マシだと思う。  
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