8人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
魔王のパレードは、予定通り行われた。あの日と同じ、気持ちの良い快晴だった。
「魔王、今日こそは、お前を退治してやる」
目の前に現れたのは、あのパレードの日、魔王にサビついた剣で向かっていった勇者だった。あの時と比べて、一回りも二回りも体は大きくなり、凛々しい顔つきになっている。
「はっはっは。誰かと思えば、いつぞやの小僧か。良いだろう。相手になってやる」
勇者と魔王はそれぞれ剣を抜き、にらみ合う。
「うおおお」
勇者が剣を振りかざす。魔王は自分の剣で、その太刀を受ける。
「うぐ」
勇者の剣の重さに、魔王は一歩二歩と後ずさる。 二つの剣が、幾度となくぶつかり、鋭い音が町に響く。両者とも、全く引かなかった。
「ふっふっふ。勇者よ。強くなったな。しかし、俺と互角に戦えると思うなよ」
魔王は勇者に向かって、左の手のひらを向ける。そこから、炎が勢いよく噴き出した。
「ぐわああ」
勇者が炎に包まれた。
「残念だったな。勇者よ。これで勝負あったな」
「甘いな。魔王」
「なに?」
炎の中から、勇者が飛び出し、鋭い剣が魔王を突き刺そうとする。魔王は慌てて後ろに飛び、その斬撃を交わす。
「お前が炎の魔術を使うというのはすでに知っている。それに備えて、聖なる糸で編んだ服を着ているから、問題ないのさ」
「なるほどな」
魔王は思わず、笑ってしまう。知力、体力、勇気、技術、全て勇者として申し分ない。久しぶりに手応えのある人間と、剣を交えることができた。
「勇者よ、お前の実力を認めよう。ただ、これを見ても、威勢をはっていられるかな。おい、魔大臣」
「はっ」
馬車の中から、魔大臣が現れる。その横には、一人の女性が縄で縛られていた。
「な、どういうことだ」
勇者が急に、焦った表情を見せる。
「勇者様」
その女性が叫んだ。潤んだ目からは、今にも涙がこぼれそうだった。
「がっはっは。この女がお前の恋人だということは知っている。取り引きしようか、勇者よ。お前の命を差し出すなら、この女を助けてやろう。嫌なら、今すぐこの女の首を斬る。さあ、どうする」
勇者の顔に、苦悶の表情が浮かぶ。
「勇者様、私のことは気になさらず、魔王を倒してください」
女性が必死に訴える。
カラン。勇者の手から、剣が滑り落ちた。
「その女性を、助けてくれ」
「勇者様!!!」
「がっはっはっはっはっは」
女性がむせび泣く横で、魔王の高笑いが響いていた。
最初のコメントを投稿しよう!