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あなたの代わりにおやすみを
朝の通勤ゲートをくぐるといつものように同期が声をかけてきた。僕の色素の薄い髪をぐちゃぐちゃにしながら、スキンシップを取ってくるのは同期と言っても40代のおじさまである。
「良いよなヤスは。こーんなに若いのに大口の顧客が出来て」
「たまたま相性が良かっただけですよ。相手も若い人みたいですし」
「ははっ、じゃあ俺も壮年の社長クラスを捕まえたいもんだぜ。じゃ、おやすみ」
同期達は薄暗い大部屋の中、カプセルホテルのようなスペースに入っていく。ほのかにラベンダーの香りが部屋から漂う。今から彼は8時間は出てこない。
代眠者と呼ばれる僕らは、大雑把に言えば他人の代わりに眠るのが仕事だ。睡眠時間を他者に融通できるようになったこの時代では、3種類の人間が存在する。「通常の人間」の他に、「他人のために眠る人間」と「他人に代わりに眠ってもらう人間」である。僕は前者でこれから眠りにつく。
僕は少し前から1人部屋を貰ったので、奥のゲートから部屋に入る。これからベッドに入って勤務開始だ。まずはベッドサイドの機械にリストバンドをかざして作業時間を記録しなければならない。僕が選んだ深海柄の寝具は深い色のグラデーションで、いつも海を思い浮かべながら寝ている。
今日もこれから8時間、しっかりと勤めが始まるはずだった。
ーーが、しかし、僕のベッドには何故か先客が居た。
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