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「私、5歳の頃から一度も眠ってないの。だから夢を見てみたい」
僕は少なからず驚いた。大体、受眠者が睡眠をやめるのは10歳前後だ。脳の睡眠は譲渡できても、身体の成長のために睡眠を取らせる方針が多いらしい。確かにミオは年齢にしては華奢だった。
「世間的には睡眠は受眠者にとっては無駄でしかないと言われています。もちろん、夢も。記憶の整理に関しても今は外部化されていますし、夢を見たければ代眠者の夢を閲覧することができるでしょう」
「そうじゃないわ。自分で夢をみたいのよ」
(夢を......?)
僕にはミオの考えがわからない。夢なんて、見たところで曖昧なものだ。空を飛ぶ夢、滑稽無糖な夢、トラウマの夢、当たり外れの激しいくじだ。
「着いたわ」
そうこう話しているうちに豪邸に連れられていた。ホワイトハウスを思わせる白く庭の広い建物の中心を歩いていく。
連れていかれたのはミオの私室らしかった。一度も使われたこともないような白いベッド。しかもキングサイズだ。
「あなたは私に最高の眠りを教えてくれたらいいの。そしたら解放してあげる」
なんだ、そんな簡単なことを。
「精進させていただきます。まずはベッドに横になってください」
「敬語はやめて。素な感じがいいの。名前も呼び捨てがいいわ」
断る権利は僕にはない。
「わかったよ。横になって、目を瞑って。リラックスするんだ」
「リラックスってどうしたら良いのかしら」
そこから説明するのか。年単位で眠ったことのない人の対応は初めてだったけれど、よく会社で寝れない後輩の面倒を見てきた僕には造作もない。
「いいからまぶたを閉じて。力を抜いて」
「枕に頭がゆっくり沈んでいくのを意識して。布団の触り心地はどう? 柔らかくて包まれてるみたいじゃない?」
僕は具体的に睡眠のイメージを伝えていく。
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