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「寝れないわ」
困ったことにミオは全く寝てくれなかった。もちろん、何もしなかったわけじゃない。僕だって安眠用の音楽もかけたし、ハーブティーも入れ、少し躊躇いながらもマッサージすらした。けれど、伊達に13年も眠っていないわけではないのだ。身体が睡眠という概念を忘却している。
「そうだ。最高の環境ならーー」
僕は眠るために日々調べていることを思い出した。
「例えば天日干しをしている布団の上に寝転がると気持ちが良い、って聞いたことがある」
実際に試したことはないけど、と言いながら僕は想像した。僕の睡眠の質が良いのには理由がある。良質な睡眠を取るためにいくつか入眠前に思い浮かべるシチュエーションのストックがあるのだ。
「天日干し?」
「昔、太陽の下で布団を干すといい香りがしたんだって。他にも公園の芝生で寝転んだり、ハンモックに揺られながらなんていうのも気持ちがいいらしいよ」
「何それ......楽しそう!」
ミオはキラキラした目でこちらをみている。しまった。思いつきで話すんじゃなかった。
「実行するなら、準備と金銭と時間が必要。今日はひとまず帰してよ」
「そう」
ミオは心底残念そうな顔をした。手順を黒服に伝えれば準備はこちらでするからと言われ、僕は会社に穏便に戻されることになった。
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