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「生きていることで誰かを不幸することなんてあるはずがない。生きているだけで価値はあるんだよ。命はかけがえのないものなんだから」
僕の言葉に彼女はゆっくりと首を振る。
「命っていうのは平等に無価値なんですよ。人間に価値はあっても命に価値はない。善人も悪人も天才も凡人も大人も子供も男も女も関係ありません。
命は1つの生き物が動くための動力であり、それ以上でもそれ以下でもありません。違いといえば、失われた時に悲しむ人がいるかいないかの違いでしかないんです。そして、私が失われて悲しむ人はいないんです」
「僕が悲しいよ」
「私が死ぬことが悲しいなら……一緒に死んでくれますか?」
「いいよ。一緒に死んでも」
僕は気が付いたらそう答えていた。僕が彼女のお願いを聞き入れると。彼女は初めて笑った。
その答えを待っていたというように。
「ありがとう」
彼女は本当に嬉しそうに笑って僕に手を伸ばす。
引き寄せられるように僕は彼女の手を取った。
ふたりで手を繋いで同時に飛び出す。
彼女の綺麗な髪が夜空に舞って。まるで天使の羽のようだった。
僕は墜ちる。彼女と堕ちる。
でも、二人だから。大丈夫。満ち足りた幸福感が体を包んでいる。
この世界にたったふたり。
今、確かに世界には僕と彼女の二人しかいなかった。
ああ。ここが天国なのかもしれない。
僕が笑い。彼女が笑った。
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